経団連は10月5日、金融・資本市場委員会資本市場部会(松岡直美部会長)をオンラインで開催した。西村あさひ法律事務所・外国法共同事業の松尾拓也パートナー弁護士が「株式報酬制度のさらなる有効活用に向けて」と題して講演した。概要は次のとおり。
■ 株式報酬制度に期待される役割
近時では、主にコーポレートガバナンスの観点から株式報酬制度に対する期待が高まっている。経営陣報酬における株式報酬の比率を引き上げることや、経営陣のみならず従業員への株式報酬を拡充することが考えられている。株式報酬に期待されている役割は、主に以下の3点である。
まず、株式報酬が適切な評価指標と連動していると、企業が目指しているゴールに向けた効果的なインセンティブとなる。株式報酬は、単に経営者と株主の利害を一致させる働きを持つにとどまらない。株式報酬がESG指標と連動する場合には、株主以外のステークホルダーの利益を保護するインセンティブとしても機能する。
次に、単なる経済的なインセンティブの側面を超えて、自社に対する帰属意識や経営参画意識などを高める効果を持つ。議決権行使や定期的な配当の受領等の機会があると、一層効果的との見方もある。
最後に、金銭の代用物として活用することも可能である。スタートアップ等においては、資金余力の乏しいなかで、優秀な人材の獲得のために株式報酬を有効活用することが多い。プライム市場の上場企業等においても、グローバルな人材獲得競争のなか、株式報酬を活用して欧米諸国の企業に負けない報酬パッケージを提示する必要がある。
■ 株式報酬の拡充に向けた制度的課題
株式報酬のさらなる拡充のためには、諸法令に起因する制度的課題を解決することが重要である。まずは、金融商品取引法上のインサイダー取引規制や開示規制による負担を緩和させることが重要である。
インサイダー取引規制は、上場会社の会社関係者が、未公表の重要事実を抱えている状態で株式の売買を行うことを禁じており、会社が役職員に株式を交付する場面でも適用され得る。当該規制が存在するのは、情報を容易に知り得る特別な立場にある者と情報を持たない投資家との間で不公平が生じ、ひいては証券市場の公正性・信頼を損なうことを防止するためである。しかし、報酬として株式を交付する場面では、会社と付与対象者との間で不公平が生じるとは考えにくく、それによって証券市場の公正性や信頼が損なわれることは想定し難いため、規制対象から外してもよいのではないか。
開示規制は、投資者の投資判断に必要な情報を提供する観点から、株式の募集に際して、有価証券届出書等の提出を原則としている。株式報酬の運用においても、開示規制による企業の事務負担は大きい。株式報酬の付与対象者は、企業の情報を十分に保有していることや、株式報酬を受け取るか否かについて投資判断をするわけではないことを踏まえれば、開示を不要とする範囲を拡大したり、開示内容を簡素化したりすることも妥当であろう。
金融商品取引法の他にも、会社法、労働基準法、税務・会計面での取り扱い等に関する課題が存在しており、これらの解決も求められる。
【経済基盤本部】