経団連は9月25日、東京・大手町の経団連会館で社会保障委員会(小堀秀毅委員長、根岸秋男委員長)を開催した。政府の全世代型社会保障構築会議で座長を務める清家篤日本赤十字社社長から、「『全世代を支え/全世代で支える』社会保障に」と題し、これまでの社会保障制度改革の背景や今後の課題について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 社会保障制度改革の背景
日本の高齢化の水準と速度は世界に類を見ない。2040年には人口の3分の1以上、60年には5分の2近くが高齢者になる。今後の社会保障との関係で重要となるポイントは、団塊世代がすべて75歳以上の後期高齢者入りする25年(2025年問題)と、団塊ジュニア世代が65歳以上の高齢者になる40年(2040年問題)の2時点である。
■ 2025年問題に向けて進む改革
「2025年問題」への対応について、社会保障制度改革国民会議は13年に報告書を取りまとめた。そこでは消費税率の引き上げを前提に、給付と負担を一体的に考える社会保障と税の一体改革の観点から提言した。分野ごとにみると、消費税率の引き上げ分のうち、少子化対策の財源に少なくとも0.7兆円確保すること、基礎年金の国庫負担2分の1を実現すること、医療や介護の提供体制を見直し、地域包括ケアを実現することなどが挙げられる。これに基づいて制定されたプログラム法により改革は進められ、少子化対策や年金財源確保などは着実に進んでいる一方、医療・介護の提供体制改革は現状ではまだ遅れている。
■ 2040年に向けての課題
2025年問題を乗り越えた後の「2040年問題」では、財源確保に加えて、労働力人口の減少も大きな課題となる。労働力人口の減少は税収・社会保険料の減少となりかねないだけでなく、医療・介護等のサービスの担い手の確保も難しくなる。そのためには人口減少下でもできるだけ労働力人口を維持する方策を講じなければならない。具体的には、まだ労働力人口を増やす余地のある、女性や高齢者の労働参加を促進して支え手を増やす環境を整備する必要がある。
女性、特に30代女性の就労促進には、保育サービスの充実と、長時間労働の是正など働き方改革によって、仕事と子育てを両立できる環境整備を必要とする。高齢者の就労促進に向けては、健康寿命の延伸につながる施策の充実、高齢期の就労や年金の繰り下げ受給を阻害している定年退職制度や在職老齢年金の抜本的な見直し等に取り組むべきである。
社会保障制度に深く関わる人口構造の変化は事前に想定し得ることであり、課題への対処法をあらかじめ準備することは可能である。
また、社会保障制度改革の要諦はバランスであり、これには給付と負担のバランスはもちろん、社会保険における「所得再分配」と「リスクに備える保険」のバランスなどもある。社会保険制度は、年齢にかかわらず、能力に応じて負担をし、そのライフステージに応じて必要となる給付を受け取るという仕組みである。これはリスクに互いに備え合い、個人の独立自尊を維持するために大切な制度であり、その適用範囲をできるだけ拡大していくべきである。
【経済政策本部】