経団連は9月12日、東京・大手町の経団連会館で幹事会を開催した。大和総研理事長の中曽宏氏が「世界経済の分断リスクにどう対処するか~アジア太平洋地域の産業界の視点」と題して、講演した。概要は次のとおり。
■ 深まる世界経済の分断
新型コロナウイルスによるパンデミックやロシアによるウクライナ侵略を契機に、世界経済の停滞と分断は、より鮮明さを増している。欧米ではインフレが加速し、それに対処するための政策金利の引き上げが経済成長の重しとなっている。2022年の世界経済の成長率は3.5%、23年の成長予測は3.0%と、過去20年間の平均成長率が3.8%であったことと比較すると、成長の鈍化傾向が見てとれる。
また、対GDP比でみた際の世界の貿易額の割合は、近年伸び悩んでいる状況にある。IMFは、世界貿易の分断が進んだ場合、世界のGDPは7%失われるとしている。さらに国際的な技術移転まで遮断された場合、低所得国のGDPは12%失われるなど、貿易の分断が世界経済に与える影響は非常に大きい。
金融分野における世界の分断は、一足早く進んでいる。14年のクリミア併合の後、ロシアは、西側諸国の経済制裁への耐久力を高める観点から、21年12月までに外貨準備高を6300億ドルまで積み上げた(世界5位)。さらに、その構成比率をみると、13年末には0%であった中国人民元の割合が、21年末には17%まで増加する一方、米ドルの割合が42%から11%まで低下するなど、ドル離れが進んでいたといえる。この間、中国もドル離れを進めており、15年に人民元の国際決済システム(CIPS)を稼働させ、国際的な決済の場における人民元の利用を戦略的に進めている。実際に、CIPSでの決済額・決済件数は近年、顕著な増加傾向にあり、米ドル基軸通貨体制に対する中国のチャレンジが始まっているといえる。
■ ABACにおける取り組み
こうした世界経済の分断が深まることは、わが国経済界にとっても望ましいこととはいえない。さらなる分断を回避するために、自由貿易・多国間協調を重視する日本が果たすことのできる役割は大きいと考えている。実際に、アジアの産業界からも日本への期待の声が寄せられている。
アジア太平洋経済協力(APEC)の公式民間諮問機関であるAPECビジネス諮問委員会(ABAC)では、貿易・投資の自由化、ビジネスの円滑化、経済・技術協力などに向けて、ビジネス界の声を反映すべく、積極的な提言を行っている。23年は11月に議長国・米国のもとで、首脳との直接対話を含む会合・提言の機会を予定している。
私が議長を務めるABACの金融タスクフォースでは、貿易取引のデジタル化や、アジア・太平洋地域で相互に運用可能なカーボン・クレジット市場の創設、トランジション・ファイナンスのアジア・太平洋地域への展開などに精力的に取り組んでいる。
日本として貢献度を高めていくことで、国際社会でのプレゼンスや影響力を維持していくことができる。ABACは、APEC各国の首脳が直接ビジネス界と対話するという固有の枠組みである。わが国産業界には、こうした仕組みの積極的な活用とともに、引き続き、ABACの活動への支援をお願いしたい。
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