経団連のアメリカ委員会(澤田純委員長、早川茂委員長、植木義晴委員長)は8月24日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。東京大学東洋文化研究所の佐橋亮准教授が、「アメリカと東アジア~伝統的安全保障および経済安全保障の現状と展望」と題して講演した。概要は次のとおり。
■ 日米韓首脳会談
日米韓首脳会談は1994年以降何度も開催されているが、国際会議の機会と別に、単独で開催したのは過去30年の歴史をみても例がない。今般の首脳会談の成果として、日米韓首脳共同声明「キャンプ・デービッドの精神」が発表され、安全保障分野における協力を新たな高みへと引き上げることで一致した。また同声明には、首脳会合・閣僚会合の定例化、定期的な3カ国演習の模索、インド太平洋対話、サプライチェーン早期警戒システムなどが盛り込まれた。この3国間協力は、米国が目指すミニラテラリズム(注)が完成形に近づいたものと評価できる。
■ バイデン政権の対中競争姿勢
バイデン政権は、中国の台頭に対抗するため、中国に対してイデオロギーよりも国力を重視した競争姿勢をとっている。一方で、危機や経済的破滅のシナリオを避けるため、対話にも注力する。伝統的安全保障と経済安全保障を両輪として、同盟国との関係を深化させながら、ミニラテラリズムによる協力を推進している。
従来、西側諸国の国際秩序の本質は開放性だった。米国は、その開放性が結果的に不公平な貿易慣行や非自由主義的な統治を助長し、相互依存による負の影響を生み出したとの反省から、現在のような強硬姿勢をとるに至った。伝統的安全保障の論理を国際経済秩序に組み込み、自由貿易の修正や経済安全保障の強化を通じて、国際秩序のあり方を塗り替えようとしている。
このことから、今後も半導体やクリーンエネルギー、バイオエコノミー関連では政府の規制が継続し、対外投資規制も続くだろう。
2023年秋のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議にあわせて、習近平国家主席の訪米ならびに米中首脳会談が実現する公算は大きい。目先の危機を望まないバイデン政権と、足元の経済に対する不安を抱える中国との思惑が表面的に一致しているため、短期的には対話姿勢であるが、中期的には米中対立の大枠に変動は見込まれない。
■ 台湾
米国は、(1)地政学的な位置付け(2)高度な民主主義国であること(3)半導体製造能力を有する経済的重要性――という台湾が有する三つの重要性の観点から、台湾を支援している。戦争を引き起こさないために台湾の事態を管理しようと企図する。不安定な状況が依然として継続しているが、バイデン政権は事態の管理を重視している。
■ 国際経済秩序の中長期的な展望
G7中心の自由主義的な秩序圏が、政治・軍事・経済における緩やかなブロック化を進めていき、中国と互いに不信を深めていくなかで、「安全保障のジレンマ」(ある国が防衛力を向上させることを、潜在的な対立国が脅威と認識して同様に防衛力増強に取り組み、安全保障環境が悪化すること)は経済面でも表れてくる。すなわち、G7も中国も相手の次の打ち手を信用できず、相手への経済的依存を促進しようという動機が低下していき、経済圏の緩やかな分裂が加速する。グローバル・サウスがこうした状況を前に第三極をつくることはない。そうした諸国を取り込むためには、秩序やルールを多層化させて対応すべきだろう。
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日本企業は、過去40年間の国際環境は前提にできないという意識を持ち、社内教育を推進することが重要である。「米国政府をインテリジェンスする」発想を持ち、米国企業レベルまで予測・対応力を高めることが重要である。
(注)3カ国以上の比較的小規模な数の国家からなる安全保障や経済協力の枠組み
【国際経済本部】