経団連のヨーロッパ地域委員会(東原敏昭委員長、髙島誠委員長)は7月26日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。外務省の鯰博行経済局長(当時)と中村仁威欧州局参事官、経済産業省の松尾剛彦通商政策局長から、最近の欧州情勢および日EU関係について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 外務省
7月13日に開催された日EU定期首脳協議では、経済安全保障や生成AIが主要テーマとして取り上げられた。
1.経済安全保障
EUが6月に発表した新たな経済安全保障戦略は、日本の経済安全保障に関する基本的な考え方と軌を一にするものと評価できる。EUは、(1)優位性促進(2)新しい経済リスクからの保護(3)パートナーとの連携――という三つの柱を打ち出している。具体的には各種産業政策ツール(ネットゼロ産業法案、重要原材料法案、欧州半導体法案など)を通じて域内市場を強化することで優位性を促進しつつ、経済的威圧や重要技術の流出を防止すべく、対内投資審査、輸出管理、対外投資規制を検討する方針である。また、これらの過程では、G7や途上国を含むパートナーとの連携を掲げている。ただし、EUは経済安全保障戦略の実行にあたり、EUですべてを決定することはできず、加盟国との間で実行にあたっての調整が必要である。
2.生成AI
G7で立ち上げられた「広島AIプロセス」を支持することで合意した。生成AIについては、5月末に開催された米EU貿易技術評議会(TTC)でマルグレーテ・ヴェステアー欧州委員会上級副委員長が行動規範の策定を提案している。日本はG7議長国として、今後G7等の場で生成AIに関する議論を主導していく。
■ 経産省
域外依存の低減による戦略的自律、グリーントランジション、デジタルを通じた経済成長がEUの主要政策である。
1.戦略的自律
EUは、巨大な域内市場をてこに戦略物資の域内生産の拡大を企図している。重要原材料法案で供給能力の目標値を設定し、サプライチェーンのモニタリングやリサイクルの強化を定め、他国との連携のため「重要原材料クラブ」を立ち上げる。同クラブの主要要素として、人権や環境保護、安定供給へのコミットメントが盛り込まれているが、これらは米国のインフレ抑制法(IRA)に基づく日米重要鉱物サプライチェーン強化協定と同様である。くしくも米欧が、サプライチェーンの信頼できるパートナーと認める要素について、同様の考え方を示したかたちである。
戦略的自律を追求するなか、ロシアのウクライナ侵略の影響も相まって、EUや加盟国の対中意識は変容している。中国への配慮がより強いといわれるドイツが7月に公表した対中戦略でも、中国との経済関係を維持する等の言葉を残しつつも、過度な依存を避け、リスクを逓減する必要性を明記しており、事前の予想より踏み込んだ内容となった。
2.グリーン
EUは、北米における製造・組み立てを条件に補助金を交付するというIRAに対抗するかたちで、総額2700億ユーロの支援措置を含むグリーンディール産業計画を公表した。加盟各国の補助金も出しやすくした。米欧による補助金を通じた産業誘致競争が激化すれば、経済規模が相対的に小さい日本は取り残されかねない。サプライチェーン上の信頼できるパートナーとして、日米欧を中核とした連携の強化を働きかけていく。
2023年10月から、炭素国境調整措置(CBAM)の移行期間が始まり、企業に対し、製品単位当たりの炭素排出量の報告が義務付けられる。現在、EUは米通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品への追加関税からの適用除外を求め、米国は見返りとしてCBAMから自国を除外するよう求めている。日本だけが取り残されないようにすることが肝要である。
35年までに全新車をゼロエミッション化することについては、ドイツなどの反対を踏まえ、35年以降も合成燃料のみで走る内燃機関車の販売が可能となった。しかし、これだけで、電気自動車へのシフト自体は大きく変わらないと見込まれる。
【国際経済本部】