経団連は7月14日、東京・大手町の経団連会館でアジア・大洋州地域委員会(原典之委員長)を開催した。国際協力機構(JICA)の田中明彦理事長から、「最近の国際情勢~日本とASEANのパートナーシップ」について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 日本とASEANの50年
ASEAN(東南アジア諸国連合)は、インドネシア、マレーシア、フィリピンの関係が悪化するなかで、それを抑止することを目的に、シンガポール、タイを加えた5カ国の協議体として1967年に発足した。日本産の合成ゴムが東南アジアの天然ゴム産業の脅威となるとして開催された73年の日ASEAN合成ゴムフォーラムをきっかけに、わが国は正式にASEANとの関係を構築しており、2023年はその時から数えて50周年の節目にあたる。その後、日ASEAN関係は1985年のプラザ合意を契機に大きく変化した。円高を背景に日本企業がASEANへの投資・進出を拡大させるとともに、ODAによりインフラを整備し、発展に貢献した。また人的交流も活発に行った。これが現在の日ASEANの友好協力関係の基礎になっている。
■ ASEANの中心性を世界が認知
ASEANは、冷戦終結後インドシナ地域が安定するにしたがい、急速な経済成長を実現した。そうしたなかで、APEC、ASEANプラス3(ASEAN10カ国+日中韓)やASEANプラス6(ASEANプラス3+印豪NZ)といった地域枠組みにおいて、「ASEANの中心性」つまり「この地域で何かするならばASEANを中心に考えるべき」というアプローチを域外諸国に認めさせることに成功した。
同時期に、世界中で貿易・投資が拡大し、WTOの枠組みが広がるなかで、中国も驚異的な成長を遂げた。そうした中国に対して、米国は寛容な政策を採用したが、ASEANは中国と米国の協調的な関係を前提にして存在感を強めた。
■ 複合的危機の時代、日ASEANを取り巻く状況の変化
現在、冷戦時や冷戦終結後とは異なる新たな時代に入りつつあるなか、「複合的危機」のもと、日ASEANの友好関係はさまざまな挑戦にさらされている。この複合的危機は、気候変動に代表される「地球物理システムの変動」を大枠として、その内側にパンデミックや自然災害などの「地球生命システムの変動」、さらにそのなかに米中対立をはじめ人と人との関係における「地球社会システムの変動」を抱えている。これまで国際関係といえば、もっぱら国と国との関係のみを考えてきた。しかし、自然災害によって世界は変わり、またパンデミックによる世界経済の停滞を経験するなど、自然のシステムと人間との相互作用を踏まえて社会システムを考察する状況になっている。国と国との競争的な現実が存在する一方、複合的危機に対しては、対立当事者を含む人類が協調し、協力体制をとる必要がある。
■ 日ASEAN関係の強化の方向性
ASEANは軍事安全保障協力を目的としておらず、地政学的対立に巻き込まれたくないのが本音である。日本は防衛力の拡大や欧米諸国との関係強化に取り組んでいるが、ASEANに対して安全保障協力を無理強いすることに利益はない。他方、ASEANに対する中国の影響力低下が指摘されるなかで、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)実現のために日ASEAN関係を強化することは当然であり、ODAが果たす役割も大きい。また、日本企業のASEANでの活躍は今後の日ASEANパートナーシップの強化、そして日本としての対外戦略の観点からも重要である。
【国際協力本部】