米国の連邦議会が、データプライバシーとAI規制の法制化に向けて動いている。そこで経団連米国事務所は6月14日、S&K Brussels法律事務所で事務所代表・パートナーを務める杉本武重弁護士を招き、両法案をめぐる動向と日本企業への影響について、説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ データプライバシー法案
連邦議会は前会期、上下両院で超党派の支持を集める米国データプライバシー保護法案(ADPPA)を審議した。より強い保護を求める声により本会議での採決には至らなかったが、今会期、同法案を修正のうえ成立を目指す動きが進んでいる。成立すれば連邦レベルで初の包括的なデータプライバシー保護法となる。
同法案最大の注意点は、米国の事業体(企業、非営利団体)はもとより、その親会社や、米国居住者のデータを扱う日本企業にも、域外適用で効力が及び得ることである。クラスアクションを含む個人の損害賠償請求を認める規定も多く、事業上の大きなリスクになる。
現状、法案は成立後わずか180日で施行するとしているため、成立前から具体的な内容を注視しておくことが重要である。法により課される義務は、事業体の売上高や扱うデータ件数等によって変わるが、法が要求するプライバシーポリシーの改定や社内責任者の選定等を行うには、組織が収集しているデータの種類や利用目的をあらかじめ把握・整理するとともに、社内の規程や体制を整備する必要がある。
■ AI法案
中国がAI管理法を年内にも施行しようとするなか、米国でも5月、民主党のチャック・シューマー上院院内総務がAI推進・管理に関する法案を準備中と表明し、超党派の協力を呼びかけた。同法案は、今夏にも提出され年内に成立する可能性がある。AIモデルの学習データに含まれる個人情報の取り扱いを適正化する観点から、前述のADPPAと抱き合わせになる可能性にも注意が必要である。
シューマー氏は、責任あるAIを実現するための「四つのガードレール」として、(1)アルゴリズムの訓練者と想定利用者の特定(2)学習データのソースの開示(3)AIの回答導出プロセスについての説明(4)AIの透明性・倫理観の保証――を提示した。ホワイトハウスが2022年10月に公表した「AI権利章典のための青写真」で示した類似の5原則とあわせ、連邦AI法案の基礎になるとみられる。
欧州連合(EU)やG7、経済協力開発機構(OECD)も、AIをめぐるルール整備に動いている。23年はルール整備で競争が起こる年となるだろう。
【米国事務所】