経団連は6月1日、金融・資本市場委員会資本市場部会建設的対話促進ワーキング・グループ(銭谷美幸座長)を東京・大手町の経団連会館で開催した。内閣官房健康・医療戦略室の宮原光穂参事官から、「インパクト投資とグローバルヘルス」にかかる最終報告書ならびに今後の取り組みについて説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ グローバルヘルス戦略とインパクト投資
2030年のSDGs目標年に向け、日本政府は22年5月に「グローバルヘルス戦略」を策定した。同戦略では、(1)グローバルヘルスに携わる国際保健の連携の枠組みであるグローバルヘルスアーキテクチャーの構築に貢献し、パンデミックを含む公衆衛生危機に対する予防、備え、対応(PPR=Prevention, Preparedness, and Response)を強化すること(2)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(注)の達成――をうたっている。それらを実現するためには、公的資金のみならず民間資金の活用が不可欠である。民間資金を動員するためのカギがインパクト投資の推進にあるとの認識のもと、22年9月に「『インパクト投資とグローバルヘルス』に係る研究会」を設置し、5回の開催を経て、23年3月に報告書を取りまとめた。
■ インパクト投資への期待
ESG投資(環境・社会・ガバナンス対応を踏まえた投資)と比較した際、インパクト投資は、投資を通じたインパクト創出の「意図」の程度が特徴となる。ESGのE(環境)に関して、気候変動・生物多様性に関する情報開示や取り組みが進むが、S(社会)の取り組みや情報開示は道半ばである。ヘルスケア分野は公衆衛生に関する調査などによりエビデンスが評価されるため、Sの取り組みの突破口となり得る。
30年には、すべてのステークホルダーがインパクトを考慮するインパクト・エコノミーを実現し、グローバルヘルスの課題解決が図られるようにしたい。そのために、まずは、認知の拡大や普及、先進事例の収集や分析を進め、将来的には情報開示の手法や開示情報の整備などを行っていくことが重要である。
一方、課題もある。ヘルスケア分野は上流の研究開発から流通・販売業者、下流の医療機関と裾野が広い一方、流通・販売業者にインパクト投資がほとんど知られていない。また、測定のツールやデータが整備されていない。開発が進むさまざまなツールとの整合性をとりつつ、データを整備する必要がある。
■ インパクト投資イニシアティブの立ち上げ
5月20日に取りまとめられた「G7広島首脳コミュニケ」において、「グローバルヘルスのためのトリプルI(インパクト投資イニシアティブ)」の立ち上げが宣言された。同イニシアティブは、9月の国連総会ハイレベル会合のタイミングでの設立を目指している。設立に向け、G7各国、機関投資家、英国のインパクトタスクフォースなどの国際的な団体等とも連携し具体的な内容を詰めていく。現在、幅広い関係者に参加を呼びかけている。本日出席の企業とも連携していきたい。
(注)すべての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態
【ソーシャル・コミュニケーション本部】