経団連米国事務所は5月24日、政策トレンドの予測を強みとする戦略コンサルティング企業のキャップストーン社からダニエル・シルバーバーグ氏とエレーナ・マクガバン氏を招き、米国の対中政策の展望と日本企業への影響について、説明を聴くとともに意見交換した。両氏による説明の概要は次のとおり。
米国の対中政策を展望するには、「ワシントンは反中だ」と大くくりにするのではなく、個々の機関の動向をみる必要がある。
■ 連邦議会
議会では、より厳しい対中規制の制定をめぐり民主・共和両党のもみ合いが続いている。共和党は、中国がグローバルに影響力を伸ばしていることなど、より軍事的・戦略的側面に注目している。一方、民主党は、伝統的には人権と貿易の視点で中国と向き合ってきたが、最近サプライチェーンを多様化し、雇用を取り戻すことを主張している。有権者に響くからである。
議会では今後、国防授権法等を通じた国防費の上乗せ以外の点では、膠着が続くだろう。動きが出ている対中投資規制法案も、合意はできるかもしれないが、前会期に法制化に失敗した(注)ことを踏まえると、十分な支持を得られるとは考えにくい。
■ ホワイトハウス
ホワイトハウスはより現実的なスタンスを取っている。現状では中国に対し厳しい姿勢を貫いているが、中国の出方次第では異なる対応を取っていただろう。
ホワイトハウスの優先事項は、米国経済の強化、技術移転の規制、投資への規制、海外インフラ投資である。
投資規制をめぐっては、特に対外投資への規制に注目すべきである。商務省等からの懸念の声で遅れてきたが、連邦議会の動静も踏まえて、大統領令により遠からず規制が導入されるだろう。当初は半導体、AI、量子コンピューティング等、限られた分野が対象になるといわれているが、米国史上前例のない措置であり、どれほど小規模に導入されたとしても、過小評価は禁物である。バイオ、再生可能エネルギー、ロボット、自動運転等、懸念が高まっているその他の分野に適用が拡大されていく可能性もある。
海外インフラ投資に関しては、重要鉱物や5G等のインフラをめぐり一帯一路に対抗するため、日本をはじめとする同志国との連携が必要と認識されている。日本企業にはチャンスがある。特にグローバル・インフラ投資パートナーシップ(PGII)に注目すべきである。
■ 州政府
州政府も重要な主体である。年金基金による中国企業投資や中国籍の人物による不動産購入が規制されはじめている。中国企業との合弁企業に対する投資等の制限も導入が進む可能性がある。
■ 日本企業への示唆
日本企業は次の3点を想定しておくべきである。
第1に、友好国間でサプライチェーンを築く「フレンドショアリング」の進展である。重要インフラの変革に必須であり、日本企業にとっては好機となる。
第2に、防衛協力の深化である。防衛産業での日米連携は強化される可能性がある。
第3に、中国企業との合弁企業に対する連邦・州政府のより広範な調査である。また、電気自動車をはじめ、重要技術のサプライチェーンの一部を中国に依存する同盟国企業への懸念は、今後とも高まる一方と考えられる。該当する企業は特に注意を払う必要がある。
(注)前会期、上院と下院はそれぞれ別の対中競争法案を可決。相違が多かった通商関連条項は最終的に削除された(その他の項目を軸に「CHIPS+法」が2022年8月に成立)
【米国事務所】