経団連は5月10日、東京・大手町の経団連会館で、G7新潟財務大臣・中央銀行総裁会議に出席するため来日した、英国のジェレミー・ハント財務大臣との懇談会を開催した。経団連からは、平野信行副会長(当時)、清水章ヨーロッパ地域委員会企画部会長らが出席した。ハント大臣の発言概要は次のとおり。
英国とEUとの関係はロシアによるウクライナ侵略に協力して対応するなど、引き続き強力である。スナク首相のリーダーシップにより、北アイルランド議定書の運用円滑化を目指す枠組み「ウィンザー・フレームワーク」に合意し、EUと新たな関係をスタートした。貿易面では、Brexit以前の基準を維持しつつ、規制についてはより柔軟に対応することが可能になった。AIや金融といった分野では、イノベーションを促進すべく、企業にとって魅力的な事業環境を整備していきたい。
英国は、中長期的な成長戦略として「欧州のシリコンバレー」となることを目指しており、五つの戦略的分野を特定した。
- (1)テクノロジー。現在、英国には144のユニコーン企業(注)があり、ドイツとフランスを合計した数の2倍である。
- (2)ライフサイエンス分野。アストラゼネカ社の新型コロナウイルスワクチン等、この10年で進展をみせている。
- (3)クリーンエネルギー。英国は欧州最大の洋上風力発電容量を有しており、中国に次いで世界第2位の規模を誇る。現在、電力の40%が再生可能エネルギー、25%が原子力発電由来だが、2050年までに再生可能エネルギーおよび原子力発電で100%賄うことを目標としている。これは、地政学的リスクに左右されず、自国でエネルギーを調達できるようになるためにも重要な戦略である。他方、公的資金だけでは不十分であり、民間からの投資を促進していくことが不可欠である。
- (4)映画やテレビといったクリエーティブ産業。EUの規制に拘束されることなく発展させる方針である。
- (5)先端技術。英国は自動車、航空、宇宙といった分野で強みを持っており、日本との連携を緊密にしていきたい。
また、これら五つの分野を成長させる基盤として、強力な金融サービス分野およびハイレベルな高等教育機関を有している。
英国は、インド太平洋地域への関与を強化すべく、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)加入について大筋合意に至った。Brexit後も自由貿易にコミットしていく証しである。外交政策については、日本と同様、米国・EU間の橋渡しを担っていきたい。日本は同地域における重要なパートナーであり、経済だけでなく、防衛や安全保障、外交分野においても関係強化を期待する。G7財務大臣会合では、経済安全保障も主要議題の一つとなっている。完全なデカップリングは不可能だと認識すべきである。一方、戦略的分野については、リスク低減に向け、同志国との連携が効果的である。
(注)評価額10億ドル以上、設立10年以内の非上場企業
【国際経済本部】