経団連の企業行動・SDGs委員会企業行動憲章タスクフォース(関正雄座長)は4月20日、国際使用者連盟(IOE)のロベルト・スアレス・サントス事務局長の来日の機会をとらえ、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。サントス事務局長による説明の概要は次のとおり。
■ IOEの役割と最近の活動
IOEは、国連や国際労働機関(ILO)等の場において、使用者の観点から企業の成長・成功を促進し、その価値を社会に統合することをビジョンに掲げて活動している。
労使関係や雇用等の伝統的な分野のみならず、最近は、デジタルエコノミー、多様性、ジェンダー、責任ある企業行動、教育、気候変動等を新たな優先分野として位置付けている。
■ デジタルエコノミーにおける課題
デジタルビジネスの拡大により、多国籍企業に限らず中小企業も、業務の効率化のみならず、新たな市場へ容易にアクセスできるようになった。途上国でも新たなビジネスやサービスが生まれ、貧困脱却の一助となっている。
一方で、デジタルエコノミーにおいては、(1)モニタリングやグローバルな規制が困難なこと(2)インフォーマル性が高まっていること――が問題となっている。また、デジタルエコノミーによって多様な働き方が生じており、使用者が労働者に同一のルールを適用するだけでは対応できなくなっている。さらに、コロナ禍以降、労働の「時間」ではなく目的やタスクに注目した働き方へと変化するなか、労働時間に関する規制は時代遅れになりつつある。従業員の生産性測定ツールによるプライバシーやデータ保護の問題も存在する。政治家や政策立案者はこうした課題があることを十分に認識していないことから、IOEとして、ILOでの議論や働きかけに積極的に取り組む。
■ ビジネスと人権
2011年に国連において全会一致で支持された「ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)」は、(1)国家が人権を保護する義務(2)企業が人権を尊重する責任(3)人権侵害の被害者が救済にアクセスできるメカニズムの構築――の三つの柱から構成される。UNGPsに法的拘束力はないが、多くの企業は人権リスクに対して責任ある行動をとっている。汚職や腐敗が蔓延しているような国の政府は人権保護のための取り組みを何も行わない。そのため、企業に責任が回ってくることが最も懸念される。
現在、欧州連合(EU)で議論されている「企業サステナビリティー・デュー・ディリジェンス指令案(CSDDD)」においては、多国籍企業の人権デュー・ディリジェンス(DD)に違反があると疑われる場合に利害関係者が苦情申し立て手続きを利用できるようにすることが検討されている。しかし、自社の業務にとどまらず、サプライヤーに関する苦情を取り扱うことは企業にとってかなり困難である。
今後もIOEは、ビジネスと人権に関する民間部門の主要な代表者として、グローバルなリーダーシップを発揮する。また、特に途上国の中小企業に焦点を当て、その能力開発とともに、責任ある企業行動の分野におけるIOEのネットワークの認知度向上に取り組む。
【SDGs本部】