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Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年6月1日 No.3592 バイオエコノミーの国際議論から見た日本の進む道 -バイオエコノミーの理解と農林水産業での貢献/バイオエコノミー委員会

経団連のバイオエコノミー委員会(小坂達朗委員長)は4月25日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催した。農林中金総合研究所の藤島義之理事研究員から、バイオエコノミーの国際議論から見た日本の進む道、特に農林水産業での貢献について説明を聴いた。概要は次のとおり。

■ バイオエコノミーの流れ

2009年に経済協力開発機構(OECD)が発表した報告書(注1)において、環境的・社会的・経済的な課題や生態系過剰搾取の危機に対してバイオテクノロジーを用いて解決を図ることが提唱された。これは、各国がバイオエコノミー政策を立案するきっかけとなった。12年に米国および欧州連合(EU)でバイオ戦略が公表されたことを皮切りに各国でバイオ戦略が作成された。わが国では19年に国家戦略としての「バイオ戦略」(注2)が策定された。

■ 欧州のバイオエコノミー

欧州では、加盟国の方向性をあわせるツールとしてバイオエコノミーが使用されている。脱化石資源の実現を目指すなかで、欧州の標準的な手法を世界基準とし経済的優位に立ちたいねらいがあるとみえる。さかのぼると00年からバイオエコノミーに関する議論が開始されており、関連する取り組みに公的資金が投入されている。欧州における21~27年の研究フレームワークを定めた「Horizon Europe」では約90億ユーロをバイオエコノミー関連活動に充てることとしている。

■ 米国のバイオエコノミー

米国のバイオエコノミー活動は過剰生産された農作物をバイオ燃料に活用することに始まる。12年の米国のバイオ戦略である「National Bioeconomy Blueprint」では研究開発投資支援や研究結果を市場につなげるための取り組みなど、五つの活動領域を特定した。22年9月にはバイデン大統領が大統領令を発信し、バイオエコノミーを推進するため、各省が連携して総額20億ドル以上を拠出することを決定した。

■ 日本のバイオエコノミーと農林水産業での貢献への示唆

わが国では19年に「バイオ戦略」が公表されたが、実際は1970年代に発生したオイルショックへの対策として2019年以前よりバイオ技術開発に世界のどの国よりも真剣に着手していた。しかし、リーマンショックや東日本大震災、また度重なる政権交代で活動が停滞してしまった間に、世界ではバイオエコノミーが急速に進められていた。

農林水産業の観点から日本の政策を見て気になる点は、本来であればバイオ戦略そのものであるといってもよい「みどりの食料システム戦略」や新たな「バイオマス活用推進基本計画」などの政策が「バイオ戦略」と関連付けて語られていないことである。日本の取り組みが部分最適になっていないか危惧される。

また、バイオエタノールについて、以前はコストが見合わなかったものの、今はそれよりも高い金額で化石資源を輸入してはいないだろうかとの疑問がある。時代は変わり、過去では失敗と判断された試みでも今なら活かせるものがある。

バイオエコノミー推進のためには、そもそも日本人が持っている「もったいない」精神に立ち戻る必要がある。日本は世界に伍するバイオ技術を持っている。世界の後追いをするのではなく、日本が正しいと思う道を政策として回していくことが必要である。

(注1)The Bioeconomy to 2030: designing a policy agenda(09年)
https://www.oecd.org/futures/long-termtechnologicalsocietalchallenges
/thebioeconomyto2030designingapolicyagenda.htm

(注2)バイオ戦略2019(19年)
https://www8.cao.go.jp/cstp/bio/bio2019_honbun.pdf

【産業技術本部】

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