経団連は4月21日、雇用政策委員会人事・労務部会(直木敬陽部会長)をオンラインで開催した。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの石黒太郎部長から、日本企業におけるシニア社員雇用の方向性について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ シニア雇用を取り巻く環境
わが国の18歳人口は過去30年間で6割以下となった。今後も減少が続くため、若年者の採用は難しくなる一方である。また、女性の就業率がすでに7割程度あることや、外国人にとって日本は就労国としての魅力度が低いことから、女性や外国人の雇用による労働力の補填は困難である。
したがって、シニア雇用が労働力不足の解決策として極めて重要であり、日本政府が、年齢によらず本人の希望に応じて活躍できる「エイジレス社会」を目指す方針を掲げるなど、これまで以上にシニア雇用を重視する動きがみられる。
他方、シニア雇用を進めるだけではなく、技術革新による職務代替についても対応が必要である。日本は欧米諸国に比べてICTへの投資が遅れており、労働生産性は国際的に低い。テクノロジーで代替できる簡単な職務をシニア社員が担うことは、企業のコスト競争力に悪影響を与える。シニア社員にいかに高度な職務を担ってもらうかが、日本企業成長のカギの一つといえる。
■ シニア社員の就労事情
シニア雇用を検討するうえでは、ジェロントロジー(老年学)の観点から、シニアに生じる心身の変化が就労に与える影響を検証することが重要である。
例えば、体力については、全身持久力や動体視力などの一部を除き、65歳までの多くのシニアが60歳以前と同等の能力を有している。知能では、新しいことを覚える、あるいは新しい環境に適応するといった「流動性知能」は加齢により徐々に衰える一方、蓄えられた知識や経験を活かして問題を解決する「結晶性知能」は加齢による影響を受けにくい。さらに、シニアの仕事への活力は若年者より高い傾向にあり、65歳以降の就労継続を希望するシニアの割合は約8割に上る。
しかし、多くの日本企業の実態である「成果を期待しない」再雇用制度では、シニアに相応の体力・知力・活力があっても、モチベーション高く働いてもらうことは困難であり、現場において相当数の「残念なシニア」を生んでいる要因になってしまっている。
1990年前後に新卒入社した大量採用世代が数年後には60歳を迎える。「残念なシニア」をさらに増やさないためにも、シニア社員のモチベーションを引き出す就労環境の整備が企業にとって急務である。
■ 今後のシニア社員活躍のあるべき姿
シニア社員の活躍支援をサステイナブルな仕組みにするためには、(1)企業からシニア社員への期待値(2)シニア社員が保有する知見・能力・スキル(3)シニア社員の発揮成果(4)シニア社員の評価・処遇――をすべてイコールにする必要がある。日本型雇用は、年功的運用によって賃金水準と職務価値がアンバランスになってしまう傾向にあり、シニア雇用との相性が悪い。シニア雇用の見直しを機会として、日本型雇用からの脱却を検討すべきである。これは人材マネジメント全体にかかわる課題であり、事業戦略の実現に資する人材戦略として、人的資本経営の視点に基づく大きな変革が求められている。
【労働政策本部】