経団連と国公私立大学のトップから成る「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」(座長=十倉雅和経団連会長、大野英男就職問題懇談会座長)は、4月26日、第7回会合を開催した。同会合では、2022年度における検討成果を報告書「産学協働で取り組む人材育成としての『人への投資』」として取りまとめ、同日公表した。
産学協議会では、22年度、ポストコロナを迎える今こそ、社会性の視座に立脚しつつ、国際競争力強化を通じた持続的かつ力強い成長の実現を目指し、わが国経済社会の変革を本格化すべきという基本認識のもと、リカレント教育をめぐる課題の深掘りや、インターンシップを核とした「学生のキャリア形成支援活動(4類型)」の周知に取り組んだ。加えて、初の試みとして、政府の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)等に盛り込まれた教育関連の重要政策課題について議論するため、「テーマ別懇談会」を開催した。報告書では、こうした活動を通じて得られた指摘事項を整理している。ポイントは次のとおり。
■ 採用・インターンシップ
23年度から、4類型が本格的に実施されることを見据え、産学が連携して、その円滑な推進を政府に働きかけた。あわせて、企業・学生・大学等への周知活動として、メッセージ・解説動画の公開、リーフレット・FAQ集の作成、産学協議会基準準拠マークの決定・配布、質の高いインターンシップの実施に関する意向調査の実施等に取り組んだ。さらに、主に文系修士課程学生を対象としたインターンシップを23年度からパイロット的に実施することで産学が合意した。
産学協議会では、引き続き、4類型の普及・定着に努めていく。また、政府が、26年3月以降に卒業・修了予定の学生を対象に、専門性の高い人材に限り、採用日程を弾力化する方針を公表していることを踏まえ、企業・学生等が混乱しないよう、適切な情報を発信する。さらに、就職・採用活動のあり方について、産学で本質的な意見交換を実施する。
■ リカレント教育
「大学ならではのリカレント教育とは何か」という点に着目し、議論を深めるべく、検討の一環として、大学に対してアンケートを実施し、リカレント教育の好事例を収集・分析した。収集した好事例を基に、「大学の強みを活かしたリカレント教育プログラム」を七つに類型化した(図表参照)。とりわけ類型ホ・ヘ・トは、大学の強みを活かしたプログラムと考えられるほか、地域で「知」の中核を担う大学としての類型ロも重要である。
リカレント教育における今後の最大の課題は、企業側ニーズと大学側シーズのマッチング体制の構築・拡充である。そこで政府に対し、「5年間1兆円の施策パッケージ」の展開にあたっては、(1)省庁横断的な施策の実施(2)大学の良質なリカレント教育プログラムが5年を超えて定着するような仕組みの整備――を要望した。データベースの構築など、公的なコーディネート機能の強化を強く求めている。
類型 | 目的 | 想定される主な受講生 |
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イ | 大学が、学部生を対象に開講している基礎科目・一般科目のうち、 Society 5.0時代の常識として知識の刷新・能力の底上げを図る必要性など から、企業人向けに内容をカスタマイズしたうえで受講を推奨するもの |
企業人全般 |
ロ | 地域特性(地域社会・産業、域内の多様な関係者等)に対する深い理解に 基づき、地域課題の解決に取り組むことを主眼としたもの |
消費者や行政との接点が 多い現場社員(営業等) |
ハ | 専門性の高い職務に従事している企業人のスキルアップ・資格取得に 資するもの(医療・保健分野等) |
専門職人材(エンジニア、 有資格者が多い職種等) |
ニ | 学術研究の実績等で当該大学が強みを持つ分野に特化したもの | 職務上、当該分野に関わる 仕事に従事する社員 |
ホ | 理論と実践知の融合を通じて社会実装に必要な能力の向上・手法の獲得に 資するもの |
社会実装に取り組む研究 開発職 |
ヘ | 異業種・異分野交流を通じて、新たな価値共創やイノベーションに資する 分野横断的知識・能力(総合知・総合力)の獲得・向上に資するもの |
新規ビジネス創出・事業 開発に取り組む社員 |
ト | 高度経営人材の育成を主目的としたもの(広範な分野の理解力、俯瞰的 判断力、決断力・リーダーシップ、人的ネットワーク等の涵養) |
幹部候補生や役員 |
■ テーマ別懇談会
テーマ別懇談会は、(1)文理融合を前提としつつ、理系分野に進学・従事する人材の拡充(2)社会に一層評価され、かつ若者・社会人にとってより魅力ある大学院教育の充実(企業における博士人材の活用推進を含む)(3)グローバル人材育成の一層の促進(4)教育に対する産業界の取り組み(投資を含む)の促進――の四つのテーマについて議論し、より重点的に取り組むべき課題を抽出した。今後は、(1)~(3)のテーマについて、具体的な推進方策等に関する検討を深めていく。
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産学協議会では、同報告書のアクション・プランで示した活動方針に基づき検討等を重ね、産学で共通認識が醸成された場合は、政府等に提言することも視野に活動していく。
【SDGs本部】