経団連は4月18日、長年にわたり米国国務省、ホワイトハウスでアジアを担当し、アジア太平洋経済協力会議(APEC)担当大使などを歴任したアジア・グループのカート・トン マネージング・パートナーの来日の機会をとらえ、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。トン氏による説明の概要は次のとおり。
米国と中国は現在、インド太平洋地域における影響力をめぐって長期的な敵対関係にある。米国はルールに基づく秩序を推進する一方で、中国は経済と地政学の双方から挑戦している。この構図は地域の緊張を高めており、多くのアジア諸国が今後の行方を注視している。
米国の対中政策は、トランプ政権時代の混沌としたものから、バイデン政権下で合理性と組織性を持ったものへと変貌した。米国議会も積極的に関与し、CHIPSプラス法やインフレ抑制法、ウイグル強制労働防止法などを駆使して技術流出の防止を図り、米国の産業競争力を強化している。軍事力につながる重要技術である半導体、スーパーコンピューター、人工知能、量子コンピューターを中心に、中国の技術開発を遅延させることを目標にしている。特に半導体製造装置では、日本とオランダが米国と連携しており、封じ込め戦略が一定の成果を挙げている。
中国は、習近平国家主席が権力を掌握し、あらゆる政策が習氏を経由して決定される体制となっている。中国は、中央集権化、共産党の民間企業への浸透、技術的自立に政策の重点を置く。米国による技術や資本の流れの制限にもかかわらず、競争に打ち勝つという決意は固い。だが、先端技術への資本投入を試みる一方で、強力な民間企業や起業家を弱体化させるなど、政策に矛盾が生じている。また、中所得国の罠(注)、人口減少、環境破壊、経済への過度な国家介入といった課題に直面している。
米国の対中政策は、封じ込めと経済成長・安定化との間で揺れ動いている。議会、国務省、国防総省などの強硬派は封じ込めを主張し、ウォール街や議会内の一部穏健派は経済成長と安定化を求めている。バイデン大統領は、両者の間でバランスを模索している。少なくとも今後20年は両国の緊張関係が続くと思うが、全面戦争には至らないと予測している。
日本企業は、中国との貿易や投資の必要性を認識している。日本政府は、米国と中国双方からの圧力を巧みにかわしながら、日本企業の成長機会を確保するために中国との経済関係を維持している。米国との対話では、日本企業の意見も積極的に取り入れることが望ましい。さらに、中国の野心に対抗するため、バランスのとれたアプローチを確立し、多国間協力を促進することが重要である。
日本企業・政府ともに、米中関係の悪化が続くなか、経済的利益や技術開発の観点から適切な対応を迅速に行うことが求められる。国内外の同盟国やパートナーとの連携を強化し、国際社会と協力して地域の安定化を図ることが不可欠である。今後の日本企業の課題は、米中関係の動向を見極めつつ、自身の戦略を見直し、変化に適応する能力を磨くことである。
(注)1人当たりGDPが中程度の水準(中所得)に達した後、発展パターンや戦略を転換できず、成長率が低下、あるいは長期にわたって低迷すること
【国際経済本部】