わが国企業によるデータ利活用が停滞するなか、デジタルトランスフォーメーション(DX)を通じて産業競争力強化やSociety 5.0 for SDGsを実現するためには、データ連携による価値の協創が不可欠である。こうしたなか、デジタルエコノミー推進委員会(篠原弘道委員長、東原敏昭委員長、井阪隆一委員長)では、データ連携に際しての障壁を洗い出すとともに、新技術の活用を含めた解決策を見いだし、わが国のDXを前に進めるべく検討を深めている。
そこで、4月18日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室の宮田裕章教授から、DXのあり方と目指すべき未来社会の姿について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 最大「多様」の最大幸福
各国企業の時価総額ランキングをみると、1989年時点ではトップ20社のうち3分の2以上が日本企業であった一方、現在は1社もランクインしていない。時価総額がすべてではないが、過去30年の間に大きな変化が起きている。
日米の株式市場におけるパフォーマンスを比較すると、いわゆるGAFAM(Google、Amazon、Facebook〈現Meta〉、Apple、Microsoft)を除けば大きな差はない。ごく一部の企業の存在が、日米に大きな差をもたらしている。これらの企業にとって転換点となったのは、デジタル技術の活用である。
目下、生成型AI(注)の活用が注目を浴びている。遅かれ早かれ、ほとんどの業界が大きな影響を受けるだろう。現状では活用に向けた課題も多数存在するが、いずれは解決に向かうと考えられる。
デジタル技術の発展により「専門性」が拡張・深化するなかで、企業に求められるのは、ビジネスを定義し直すことである。DXの本質はモノの提供ではなく、いわば個人の「体験価値」にある。一人ひとりにとっての価値をとらえたうえで、個別化と包摂を通じ「最大『多様』の最大幸福」を実現することが不可欠である。
■ データ共有を通じた価値協創
データは価値を可視化する。また、消費財と異なり、データは共有することができる。いわゆるWeb2.0の時代においては一部の主体がデータを独占していたが、今後web3と呼ばれる時代には、多様な主体がデータを共有し、新たな価値を創出することができる。今後、さまざまなデータの共有を通じ、米国、EU、中国とは異なる、日本型の価値協創社会を実現することが求められる。
データ共有を進めるうえでは、各主体間で目指す価値を共有することが欠かせない。平均的なウェルビーイングを超えて、共通の目的のもと一人ひとりが自身にとってのウェルビーイングな状態であり続ける、いわばBetter Co-Beingを目指すことが重要である。
(注)命令に応じてテキスト、画像等を生成することができる人工知能(AI)の総称
【産業技術本部】