経団連は3月22日、東京・大手町の経団連会館でカナダ委員会(植木義晴委員長、藤本昌義委員長)を開催した。山野内勘二駐カナダ特命全権大使から、日加連携の展望について説明を聴いた。概要は次のとおり。
日本とカナダは、自由、民主主義、法の支配などの価値を共有し、長年にわたり良好な関係を築いている。ロシアによるウクライナ侵略を受けて、日加関係は重要性を増している。
■ 力による現状変更の阻止
ロシアによるウクライナ侵略という力による現状の一方的な変更は、第2次世界大戦後最大の危機である。カナダは、ウクライナ、ロシアに次いで世界で3番目にウクライナ出身者が多いということもあり、武器援助を含めて対応している。戦後復興に関しては日本との連携も重視している。
■ サプライチェーンの強靱化
日本にとってカナダは重要物資のサプライチェーン強靱化を推進するうえで重要なパートナーである。例えば、わが国は肥料の原料であるカリウムをすべて輸入に依存している。輸入先の内訳は、カナダが50%、ロシアとベラルーシの両国で30%だったが、ロシアによるウクライナ侵略後、後者の30%分をカナダから追加輸入することで合意している。日本の自給率は食料38%、資源エネルギー13%であり、食料250%、資源エネルギー190%を誇るカナダは重要な調達先である。また、重要物資を「安いから買う」という姿勢では、経済的威圧の標的となる可能性を否定できない。かかる観点からも、価値観を共有するカナダは信頼できる相手である。
■ 気候変動問題への対処
全世界のCO2排出量の25%を運輸部門が占めており、これを削減するための方策として電気自動車(EV)の普及が挙げられる。カナダはEVのバッテリー製造に必要な重要鉱物資源の埋蔵量が豊富であるが、採掘に際しては、インフラの欠如、厳格な環境規制、先住民の理解などの課題もある。そもそも、重要鉱物の採掘・製造に際しては、その過程におけるCO2排出や人権問題に対処する必要があるため、市場原理だけに委ねることはできない。2022年12月公表の「カナダ重要鉱物戦略」は、これらの課題を認識したうえで、連邦政府と地方政府の連携のもとで具体的な取り組みを推進することを企図している。3月上旬には日本の官民によるバッテリーに関するミッションがカナダを訪問しており、鉱物資源の分野での協力が進展することを期待している。
■ ハイテク分野での連携
トロント・ウオータールー・テック・コリドーは、シリコンバレーに次ぐ北米2番目の規模のハイテク産業の集積地であり、量子コンピューターに関する研究開発の中心となっている。量子コンピューター技術によってアルゴリズムの解読が可能となる。このため、日本企業にとって、安全保障上の観点からもカナダは進出先の一つとなり得るのではないか。
■ インド太平洋戦略の推進
カナダは、「ニクソンショック」に先だって1970年10月に中国と国交を樹立している。カナダにとって中国は「自主外交」の象徴であった。しかし、2022年11月に「インド太平洋戦略」を公表し、外交、安全保障、経済の観点から、日本、東南アジア諸国、インドとの連携を強化する一方、中国については引き続きビジネス上重要であるものの、一線を画す方針を示している。
激動の国際情勢のもと、法の支配に基づく国際秩序を維持・強化する観点から、G7のメンバーでもあり、価値観を共有するカナダとの連携強化が重要である。
【国際経済本部】