経団連(十倉雅和会長)は3月10日、東京・大手町の経団連会館で、欧州地域に駐在する日本大使との懇談会を開催した。経団連側は、安永竜夫副会長、東原敏昭副会長・ヨーロッパ地域委員長、國分文也審議員会副議長らが出席した。東原副会長の冒頭あいさつの後、5人の大使から現地情勢等について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 正木靖 EU代表部大使
欧州連合(EU)は、グリーンやデジタル、経済安全保障といった分野でルールメーキングを進めている。グリーン分野では、2035年までに内燃機関車の新車販売禁止を掲げているが、最近になり、ドイツやイタリアが反対を表明しており、行方が注目される。欧州委員会は2月、米国のインフレ抑制法に対抗し、域内にグリーン投資を呼び込むべく、グリーンディール産業計画を発表した。また、レアアースの中国依存からの脱却を図っており、重要原材料法の制定を検討中である。加えて、同志国と「重要原材料クラブ」の設立を考えており、日本としても関与していく。他方、加盟国内でも政策ごとに意見が分かれていることを踏まえ、日本も外交を進める必要がある。日EU間の政策面での親和性を確保するために、早い段階から働きかけていく。
■ 林肇 駐英国大使
Brexitによる労働者不足等を受け、欧州内でも最も厳しいインフレ率となっている。2月、懸案であった北アイルランドをめぐる通商ルールについてEUと合意し、今後、対EU関係は改善に向かうだろう。EUから離脱し、新たなパートナーとの連携を図るなか、インド太平洋地域重視の姿勢を強化しており、日本との関係もこれ以上ないほど良好である。日本としても、英国の環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)加入を支援していく。EUと同様、グリーンやデジタル分野に注力しており、日本企業にとってさまざまなビジネスチャンスがある。
■ 下川眞樹太 駐フランス大使
22年5月、マクロン大統領が再選を果たしたが、6月の国民議会選挙では絶対多数を獲得できなかった。年金改革をめぐり大規模なデモが発生しており、厳しい状況にある。マクロン政権は、戦略的自律性の強化、脱炭素化、デジタル化を重要政策課題に掲げている。また、食料安全保障やグローバルヘルスといった地球規模課題について精力的にイニシアティブを打ち出しており、グローバルサウス(途上国)との連帯強化を図っている。
■ 柳秀直 駐ドイツ大使
緑の党が政権に加わり、気候変動対策の加速を掲げる一方、ロシアによるウクライナ侵略のため、政策転換せざるを得ない状況となっている。エネルギー危機を受け、23年4月中旬までの原子力発電所の稼働延長が決まったが、緑の党が強く反対しており、さらなる延長はないだろう。また、液化天然ガス(LNG)ターミナルを大車輪で建設しているが、今後中国の需要が増えるなか、次の冬も油断できない。35年の内燃機関車の新車販売停止については、連立与党の自由民主党が反対している。同党は合成燃料も認めるべきと主張しているが、緑の党も立場が硬く、予断を許さない。中立といいつつ実際には経済面でロシアを支援している中国への警戒感が強まるなか、水素や燃料電池の分野での日本企業との連携について、ドイツからの関心が高まっている。
■ 鈴木哲 駐イタリア大使
22年10月、事前には極右といわれたメローニ政権が発足したが、実際には前政権を引き継ぐかたちで堅実な政策が取られている。親欧米であり、特にウクライナ支援については、国際協調を図ることを明確にしている。24年に議長国となるイタリアは、欧州で存在感を発揮できる機会として、G7に力を入れている。対中関係では、G7で唯一、一帯一路の覚書を締結した過去がある。しかし、早い時期から戦略的分野への投資を規制するツールを持っており、中国からの投資案件に対して実際に発動している。また、EU復興基金から配分された総額約2350億ユーロをエコロジー転換やデジタル分野に多く投入し、キャッチアップを図っていく方針である。
【国際経済本部】