内閣府知的財産戦略推進事務局は、文部科学省、経済産業省と共に2022年11月から「大学知財ガバナンスに関する検討会」を設置し、大学の研究成果について、スタートアップ等を通じた社会実装や資金の好循環を実現する観点から、22年度内の「大学知財ガバナンスガイドライン」(ガイドライン)の策定に向けた検討を進めている。政府の「スタートアップ育成5か年計画」のもと、イノベーションを生み出すスタートアップエコシステムの強化に取り組むことの重要性は論をまたない。しかし、同ガイドラインにおいて、大学等と企業との共有特許を企業が一定期間不実施の場合に、大学等が一方的に第三者にライセンスすることを可能とする内容が盛り込まれるようなことがあれば、企業の逡巡を招き、産学連携の機運を著しく損ないかねない。
そこで、経団連は3月6日、東京・大手町の経団連会館でイノベーション委員会企画部会(江村克己部会長)を開催し、内閣府知的財産戦略推進事務局の池谷巌参事官、文科省科学技術・学術政策局の篠原量紗産業連携推進室長、経産省産業技術環境局の大石知広大学連携推進室長から、ガイドライン案の検討状況について説明を聴くとともに意見交換した。池谷氏による説明の概要は次のとおり。
■ ガイドライン策定の背景とねらい
日本が熾烈なグローバル競争に勝ち残るには、企業やスタートアップが大学の最先端の研究成果を機動的かつスピーディーに事業化につなげるべく、大学知財イノベーションエコシステムを形成する必要がある。同エコシステムでは、まず、大学知財の事業化を通じて研究成果の社会実装を実現し、事業化による収益を企業やスタートアップが得るほか、大学はライセンス収入を得ることを目指す。さらに、収入の一部を大学の研究活動等に投入することで、新たな研究成果を生み出し、社会実装へとつなげていくという好循環を形成することを企図している。
そこで、ガイドライン案では、大学知財イノベーションエコシステムを維持、発展させ、大学知財の社会実装機会の最大化や資金の好循環を図るため、(1)知財マネジメントの方針策定(2)知財マネジメントのプロセス管理(3)体制構築(4)予算・財源確保――といった観点から、基本的な考え方を示すこととしている。
■ ガイドラインの活用
社会実装機会の最大化や資金の好循環を目指す各大学は、ガイドラインの達成状況を踏まえ、大学知財に関する取り組みを見直すことが期待される。
大学は、社会実装機会の最大化および資金の好循環以外に、研究、教育、人材の育成など多岐にわたるミッションを有している。そのため、ミッションのバランスに応じて、ステークホルダーとの信頼関係とコミュニケーションを踏まえつつ、大学自らの経営責任においてガイドラインの活用を判断する。したがって、ガイドラインに記載している内容について、すべての大学に一律に実践を求めるわけではない。また、ガイドラインを実践する具体的な方法として考えられるものを記載する予定である。しかし、社会実装機会の最大化および資金の好循環の観点から、より良い別の方法があると大学が判断した場合、当該方法を採用することを妨げるものではない。
【産業技術本部】