経団連は3月2日、経済財政委員会(柄澤康喜委員長、鈴木伸弥委員長)を開催した。慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授から、「2020年代の財政運営のあり方」について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 20年代前半の財政運営
20年代に入り、わが国はコロナ禍だけでなく財政面でも大変な状況になった。20年度の大規模補正予算は予期せぬ事態に見舞われたこともあって仕方のない面があったにせよ、21年度も新型コロナウイルス前の約10倍もの規模である約30兆円の補正予算が組まれた。その多くが翌年度へ繰り越されたことをみても、規模ありきだったことは否めない。概算要求基準があり査定も厳しい当初予算に対して、補正予算は短期間で対応するためルーズになりやすい。
補正予算の財源の大半は、借金(国債)で賄っている。22年度は税収が好調だったが、当初予算段階で約34%だった公債依存度(歳入に占める新規国債発行額の割合)は、補正予算を含めると45%まで上昇した。20年度補正予算以降、国債発行額(借換債を含む)は200兆円前後に達し、その過半が2年債以下の短期債という自転車操業の状態である。これまでは低金利に助けられてきたが、今後、経済成長率が上がれば金利も上昇し、国債費(国債の元利払い費用)の増加が税収増を上回ることとなる。異常事態への対応に追われる財政運営から脱却するとともに、政策の費用対効果を十分精査し、不必要に債務を負わないための構造改革と政策の質の向上を図る必要がある。
■ 政策の質の向上に必要なもの
財政には、(1)資源配分機能(効率性)(2)所得再分配機能(公平性)(3)経済安定機能(景気の波の調整)――があるが、効率性と公平性は両立しない。政策目標と手段の数は一致しなければならず、一石二鳥の政策は論理的に無理がある。また、「ワイズスペンディング(賢い支出)が重要」と盛んにいわれるが、実際に「ワイズ」だった例は少ない。今後は「アウトカム・オリエンテッド・スペンディング(成果志向の支出)」を重視すべきである。
そのためには「政策評価の定量化」に取り組む必要がある。予算の効果を検証する仕組みとしては、以前から毎年約5000件の事業(政策の最小単位)を対象とする行政事業レビューが実施されているが、注目度は極めて低い。さらに約500件の施策(政策の達成手段)を対象とする政策評価もあるが、双方を有機的に結び付ける必要がある。現在、EBPM(証拠に基づく政策立案)の定着に向けた新たな取り組みとして、立案された政策とその効果をロジック(論理)でつなぐ「ロジックモデル」が試行されている。これは、予算の計画段階で「実施する事業」「活動目標」「成果目標」「国民・社会への影響」などを示し、結果が伴わなければ見直すという手法である。これらの取り組みによって、成果目標を定量的で検証可能なものとし、それを踏まえて予算・事業内容を見直すことが最も重要である。
【経済政策本部】