経団連は2月10日、重要労働判例説明会をオンラインで開催した。加茂善仁弁護士(加茂法律事務所)が「シャープNECディスプレイソリューションズ事件・横浜地裁判決」を解説した。概要は次のとおり。
■ 事件の概要
本件は、シャープNECディスプレイソリューションズ(被告会社)で総合職正社員として勤務していた原告が、適応障害による休職期間満了により自然退職とされたことは無効であると主張し、被告会社に対し雇用契約上の地位確認および賃金の支払い等を求めた事案である。
原告は、入社後、同僚との会話に加わらなかったり、無断残業を行ったりしており、次第に職場で涙を流すようになった。その後、原告は適応障害と診断され、これを受け、被告会社は、16カ月間の私傷病休職を命じた。その後、被告会社は原告の希望を踏まえ、休職期間をさらに15カ月延長したが、休職期間満了時点で復職可能とは認められないと判断し、自然退職とした。
■ 判決のポイント
本件では、復職に必要とされる職務遂行能力の判断が争点となった。横浜地裁は次の(1)~(4)の理由で、自然退職は無効と判断した。
(1)復職の要件である「従前の職務を通常の程度に行える健康状態」を、「私傷病発症以前の職務遂行レベル」以上の労働が提供できる状態とし、そのレベル以上に至っていないことを理由に自然退職とすることは、解雇権濫用法理の潜脱であり、労働者保護に欠ける。
(2)被告会社が疾病の種類ごとに休職期間を定めていることを踏まえると、休職期間満了時点で適応障害の症状は軽快しているにもかかわらず、当該疾病とは別の事情(原告のコミュニケーション能力等)により、「従前の職務を通常の程度に行える健康状態」に至っていないとして自然退職とすることはできない。
(3)適応障害の症状と、原告が本来的に持つコミュニケーション能力等は区別しなければならない。原告の休職理由は適応障害であり、復職要件は、適応障害による「従前の職務を通常の程度に行えない健康状態の悪化」が解消したことで足りる。
(4)適応障害の寛解時期は、被告会社の産業医が、原告の復職を可能と判断した平成29年(2017年)7月28日とするのが相当である。
■ 実務上の留意点
(1)休職理由の特定
これまでの裁判例は、休職理由である私傷病が回復していれば復職を認めるというものではなかった。本件を踏まえると、休職発令の際に、休職理由となる私傷病名およびその症状を明確にすることが肝要である。(2)休職期間の延長
本件で被告会社は休職期間を15カ月延長したが、特段の事情がない限り、延長期間は復職の可否の判断に必要な期間(数カ月程度)とすべきである。(3)産業医との連携
本件では、復職可という産業医の判断が、判決に一定の影響を与えた。裁判所は、産業医等の医師の判断を尊重する傾向にある。そのため、復職の可否を判断する際には、産業医と緊密な連携を取ることが必要である。
【労働法制本部】