経団連は12月8日、宇宙開発利用推進委員会の企画部会(原芳久部会長)と宇宙利用部会(山品正勝部会長)の合同会合をオンラインで開催した。A.T. カーニーのディレクターで、SPACETIDEの石田真康代表理事から、宇宙ビジネスの世界的動向について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 宇宙業界のマクロ動向
近年の世界の宇宙業界は大変革期にある。宇宙安全保障の重要性や社会の宇宙システムへの依存度が高まる一方で、民間企業が主体の宇宙ビジネスが活発化している。特に、世界各国が宇宙産業政策を推進するなかで、宇宙業界にスタートアップが参入している。
宇宙ビジネスは多様化している。「宇宙を活用するビジネス(衛星の開発・運用・利用)」「宇宙に進出するビジネス(宇宙旅行・滞在、探査)」「宇宙活動を支えるビジネス(ロケット、軌道上サービス)」に分けられる。欧米やアジア諸国では、各ビジネスにおいてスタートアップが事業を展開している。
世界の宇宙産業の市場規模では、衛星関連産業が最大である。官需と民需のいずれにおいても、世界最大である米国の需要を獲得することが、スタートアップが世界的に成功するために必須である。
■ 分野別の動向
衛星分野では、業界のバリューチェーンが大きく変化した。従来の衛星ビジネスは静止軌道が中心であったが、新規の衛星ビジネスは低中軌道が中心になり、製造、運用、利用を一体的に進めるようになった。衛星事業のトレンドとして、通信、放送、観測分野で商業化が進展している。
輸送分野では、米国のスペースXが圧倒的な存在感を示している。開発・運用しているFalcon9ロケットの打ち上げコストを急激に低下させて競争力を高め、2022年は60回、23年は100回の打ち上げを想定している。
また、同社はロケットの打ち上げから衛星サービスにいたるまで垂直統合している。通信衛星コンステレーション「スターリンク」を展開し、約3400機の衛星が通信サービスや安全保障向けのソリューションを提供している。
■ わが国の状況
わが国では、宇宙ビジネスの発展に向けて事業環境が整備されてきた。特に、15年の第3次宇宙基本計画以降、宇宙産業振興を目的とした法整備や政府ファンドによる投資が加速している。21年の政府の成長戦略実行計画には、宇宙に関する取り組みが明記された。
近年、わが国でも宇宙分野へのスタートアップの参入が加速している。現在、約80社のスタートアップが、衛星データ・宇宙技術利用、宇宙旅行・滞在・移住、輸送、軌道上サービスなどの分野で活動している。17年から21年の5年間で、宇宙スタートアップ企業には約1000億円が投資された。
わが国の宇宙産業は技術の蓄積などが強みであるが、一方で開発・実証・実装のスピードが遅いことなどが弱みである。今後の課題として、宇宙業界全体に対する投資を継続するなかで、開発・実証・実装のサイクルを高速化し、同時に各分野のルール形成やグローバル市場の獲得に取り組むことが求められる。
【産業技術本部】