経団連は11月2日、企業行動・SDGs委員会企画部会(上脇太部会長)を開催した。国連開発計画(UNDP)のペドロ・コンセイソン人間開発報告書室長から、UNDPが2022年2月に発表した「2022年特別報告書 人新世の脅威と人間の安全保障~さらなる連帯で立ち向かうとき」について説明を聴き、企業活動に影響を与える国際的な動向について理解を深めるとともに、企業への役割や国際的な連携のあり方について意見交換した。概要は次のとおり。
■ 人新世における「新しい脅威」と人間の安全保障
人間の安全保障とは、1994年にUNDPが初めて提唱した概念である。軍事力を用いた国家中心の安全保障の考え方に対し、「人間一人ひとりが紛争や災害、感染症などの『恐怖』、そして食料や教育、医療など生きていくうえで必要なものの『欠乏』から自由になり、尊厳を持って生きられる社会」を目指すという人間中心の考え方が画期的とされた。この人間の安全保障の考え方は、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念にも反映されている。今回、UNDPは新たな「人間の安全保障」のあり方を示した。
コロナ禍の前までの30年間、教育・健康・生活水準などの指標をみると世界全体の発展が進んできたにもかかわらず、世界のほぼ7人に6人は自分が安全ではないと感じている。各自の経済状況とは関係なく、人々の安全感が低い国では他者への信頼感も低い。信頼は、社会、政治、そして経済の基礎であり、経済取引の多くは信頼を基盤としている。経済活動が組織や地域、国を超えることが増えるなか、信頼の再構築が必要である。
同報告書では、人間の活動が地球全体の生態系や気候にさまざまな影響を与えている人新世の時代に、人類を襲う新世代型の脅威として、(1)気候危機(2)暴力的紛争(3)不平等(4)感染症などの健康への脅威(5)高度なデジタル技術の脅威――の五つを取り上げ、これらの脅威が複雑に絡み合い、問題を複雑化させていると述べている。とりわけ、経済成長を重視し地球に負荷をかける開発を進めた結果、不平等の拡大、災害の深刻化、未知の感染症などの危機が出現したと指摘し、人類のみならず地球全体の安全も守る必要があると訴えている。
■ 新しい脅威へ対処するための「連帯」
これらの脅威に対処するうえで重要なのが「連帯」である。人々は、貿易や資本取引、人の移動など、物理的に結び付いている。一人ひとりは地球と相互に依存しながら生きているという意識を持ち、人類同士、そして地球とも「連帯」しながら行動する必要がある。また、「行為主体性」(注)、すなわち私たち一人ひとりが責任ある当事者として主体的に価値判断を行い、社会や地球全体の安全を守るような行動をとることが重要である(図表参照)。企業にも、人間の安全保障と連帯の視点をいかに経営に取り入れていくか、考えてもらいたい。
(注)同報告書では、行為主体性を「人間として選択をしたり、集団的な意思決定に参加したりする際に、それが自分のウェルビーイングの増進にかかわるかどうかは差し置いても、一定の社会的な価値観を掲げ、しっかりとその推進にコミットメントをし、行動をとる当事者としての能力」と定義している
【SDGs本部】