経団連の企業行動・SDGs委員会(中山讓治委員長、吉田憲一郎委員長、西澤敬二委員長)は11月7日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のフィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官の来日の機会をとらえ、UNHCRによるウクライナから逃れている人々の支援活動報告会を開催した。グランディ氏の発言概要は次のとおり。
■ 経団連会員企業からの支援への謝意と活用報告
ウクライナから逃れている人々の支援にあたり、日本企業から多大な協力を寄せてもらった。深く感謝申し上げたい。
25年前は約10億ドルだったUNHCRの活動予算が、現在は約100億ドルに増加している。今後は政府からの拠出のみならず、個人や企業等、民間セクターの協力がより重要になってくる。今回、日本の民間セクターからの寄付は、ウクライナ関係を含めて全体で約1.3億ドルに上った。このような大規模の寄付は初めてであり、継続的な支援をお願いしたい。
ウクライナでの紛争によって、1400万人が家を追われ、その一部は国境を越えている。日本にも約2000人が逃れてきている。厳しい冬を前に、住居のほか、暖房、毛布、日用品、現金など生活に必要な物資を優先して調達・提供しているものの、ウクライナ危機がすぐに解決する見通しは立っていない。
■ ウクライナ以外の地域における難民の状況
2022年、世界全体の難民・国内避難民等が1億300万人に上った。10年には約4000万人だったので、約10年で2.5倍に増えたことになる。
難民問題が深刻化した背景には、気候変動の要素がある。これはアフリカにおいて顕著で、ブルキナファソやマリでは砂漠化や干ばつが食料難や貧困をもたらし、チャドではチャド湖の水位低下が水資源をめぐる紛争を引き起こした。他方、ベネズエラのように、政情不安に伴う社会経済の混乱によって難民が発生しているケースもあり、問題は多様化・複雑化している。
ウクライナへの支援を展開するなかで、他の地域で苦しむ人々への支援活動にリソースを割くのが難しくなっているのが現状である。
■ 民間企業への期待
UNHCRは、企業が持つテクノロジーの力に期待している。例えば、個人の登録に生体認証を利用できれば、多くの人々に効率的に支援を届けられる。オンライン教育環境が整えば、質の高い教育を提供できる。安全に現金支給できる環境をつくることができれば、現地経済の循環にも良い影響を及ぼすとともに、難民・国内避難民等が自らの選択で物品を購入できることから、精神的な尊厳の確保にもなる。
企業の社員が「世論を形成する」効果にも期待している。より多くの人が難民問題に関心を持てば、政府に対し行動変容を促すことができるだろう。企業とのパートナーシップが深化することを願っている。
【SDGs本部】