経団連の日タイ貿易経済委員会(鈴木善久委員長、鈴木純委員長)は11月1日、外務省の有馬裕南部アジア部長から、日本外交の展望とタイ政治経済情勢をテーマに説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 国際情勢の変化と日本外交
外交青書の「国際情勢に関する認識」にあるとおり、国際社会は現在、時代を画する変化のなかにあり、米中競争、国家間競争の時代に本格的に突入している。ロシアによるウクライナ侵略は、国際秩序の根幹への挑戦である。地球規模課題の深刻化、サプライチェーンの特定国への過度の依存は重大な課題であり、国際協調の重要性が増している。
日本は、これまでのアジア太平洋地域や国際社会の平和と安定への貢献により世界から得てきた信頼を基礎に、厳しさを増す安全保障環境への対応、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の推進、自由で公正な経済秩序の拡大、地球規模課題への対応などに取り組み、日本外交のフロンティアを切り開いていく。
■ タイの内政・経済情勢
タイでは、2006年の軍事クーデターにより失脚した地方・低所得層からの支持が厚いタクシン元首相派と、伝統的な富裕層・保守派との政治対立が社会を二分してきた。
22年8月には、現在のプラユット首相の任期について、憲法裁判所が25年4月5日までとの判断を示した。今後は、23年3月の下院議員の任期満了後、5月上旬までに総選挙が行われ、新政権が発足する。上院議員は軍政により任命されており、首班指名選挙において、引き続き親軍派の首相が選出される見込みである。
実質GDP成長率は新型コロナウイルス前の水準まで回復してきている。一方、急速に高齢化が進んでおり、今後、労働力の減少に直面することが懸念されている。
■ 日タイ経済関係の強化に向けて
タイ政府は、労働集約型産業から知識集約型産業への移行により、産業の高度化・高付加価値化を実現する「タイランド4.0」を推進している。具体的には、次世代自動車、スマートエレクトロニクスなどの分野への投資を引き続き奨励するとともに、ロボット工学、医療ハブなど五つの新産業を振興している。
また、タイランド4.0の重点化のため、BCG(バイオ・サーキュラー・グリーン)経済モデルを国家戦略として策定し、食品と農業、医療と健康など4分野に焦点を当てることで、経済成長と環境保全の両立を目指している。
日本からタイには、20年時点で5856社が進出している。これは08年比で約5割増である。過去10年間の累積投資額では、日本が他国を圧倒しているが、単年ベースでは中国に追い付かれてきている。世論調査によれば、タイは日本を信頼できるパートナーとして好意的にみており、こうした基盤に立って経済関係を強化していく必要があるだろう。
岸田文雄内閣総理大臣は、22年5月のタイ訪問で、プラユット首相とFOIP実現のための協力強化やウクライナ情勢をはじめとした国際・地域情勢について率直に議論した。今後は、両国関係の発展に向けた経済分野での協力の指針を定める「日タイ戦略的経済連携5か年計画」の合意や、日タイ社会保障協定の早期締結に向けた調整を加速させていく。
【国際協力本部】