経団連の地域経済活性化委員会企画部会(徳川斉正部会長)は、ポストコロナにおける国と地方の行政システムや社会機能の分散のあり方を2022年度の検討テーマとしている。9月27日の会合では、横浜市が実現に取り組んでいる特別市構想について、同市の橘田誠政策局大都市制度推進本部室長から説明を聴いた。概要は次のとおり。
「特別市」とは、1947年施行の地方自治法に定められていた大都市制度の一つであり、都道府県の区域外の市となる点が特徴である。人口50万人以上の市のなかから個々に法律で指定し、住民投票を要件としていた。しかし、大都市の独立に対する関係府県の反対などもあり、結果として法律の適用はなく、56年の地方自治法改正により、条文から削除された。その代わりに、指定都市制度が同年に創設された。以後65年余りが経過し、指定都市の数は5から20に増加したが、制度の内容は変わっていない。
指定都市は特別市と異なり、他の一般市と同様に県との二層構造のもとに置かれるため、市政運営上の課題も多い。実際、コロナ禍で問題が顕在化した。例えば、指定都市のある道府県における新型コロナウイルス陽性者の4割強が指定都市に居住しているにもかかわらず、指定都市は一般市町村と同等の権限と財源しかないため、地域の状況に応じた適切な感染対策を講じることができていない。
指定都市制度の問題点として、大きく、(1)二重行政(2)業務量に見合った税制上の措置が講じられていないこと――の二点が挙げられる。二重行政の問題は、市と県による公共施設の重複や事務・権限が分かれていることによる窓口の分散などがある。その解消には国の法改正が必要なものが多く、県市間での協議で対応できるものにも限界がある。また、税制上の措置の問題ということでは、例えば、児童相談所の運営など、本来道府県民税で賄われるべき行政サービスを法令により道府県に代わって担っているが、その業務の経費に見合う予算が措置されているとはいえない。
横浜市が掲げる特別市構想では、こうした政令市が抱える課題を解消し、新たな地方自治体として、すべての事務の一元化を目指している。特別市の実現によって、住民サービスが向上し、複雑化・多様化する行政課題に的確に対応することが可能となるほか、税の有効活用にもつながると考えている。
神奈川県との意見交換では、県の総合調整機能に支障が生じるのではないかとの問題提起がなされている。これに対して、特別市は県と市の役割分担を明確にするものであり、県は指定都市以外の市町村の補完・支援に一層注力できるようになるため、県全体の底上げにつながることが期待される。また、県の財政が悪化し、行政サービスの提供に支障が生じるとの指摘に対しては、財政中立の観点から新たな税財政制度を創設することで対応可能と考えている。
特別市の法制化に際しては、道府県と指定都市による共同申請などを含め、さまざまな手続きについて市議会・道府県議会の議決が必要である。横浜市は、市民・県民に対して、行政サービスの向上など、特別市制度の意義やメリットを丁寧に説明し、住民目線の議論を経て法制化を目指す。国や政党はもとより経済界の理解も得て、法制化への道筋を見いだしていきたい。
【産業政策本部】