経団連の雇用政策委員会人事・労務部会(直木敬陽部会長)は9月29日、同部会の新たな検討テーマ「高齢社員の活躍推進」を設定して初めてとなる会合をオンラインで開催した。千葉経済大学経済学部の藤波美帆准教授が「高齢社員のさらなる活躍推進に向けて」をテーマに講演するとともに意見交換した。講演の概要は次のとおり。
■ 高齢社員の活躍推進が求められる理由
わが国で高齢社員の活躍推進が求められる理由は大きく3点ある。
1点目は、人口減少、少子高齢化による労働力不足である。労働力不足が深刻化すると予想されるなかで、その確保のために、高齢社員の雇用継続や再雇用等の必要性が高まってきている。
2点目は、健康寿命の延びと高年齢者の就労意欲の高さである。60歳以上の高年齢者を対象とした調査(注)では、就労を希望する年齢について、「働けるうちはいつまでも」「70歳以上」とする回答が、約65%を占めている。この傾向は、諸外国にはみられない、日本特有のものである。
3点目は、公的年金の財源確保の困難さである。働く意欲と能力のある者にはできるだけ長く年金財政の担い手として働いてもらうことが期待されている。
■ 活用戦略の類型
高齢社員の活用戦略には、60歳の定年を機に人事制度を変える「一国二制度型」と、同じ制度を適用する「一国一制度型」(統合型)がある。日本企業の多くは「一国二制度型」を採用しており、さらに、(1)福祉的雇用(2)弱い活用(3)強い活用――の三つに分類できる。(1)は、戦力として期待せず、単に仕事の場を確保するだけの状態である。(2)は、(1)よりは活用の強度を高めたもので、期待役割を定年前より少し低く設定する状態をいう。(3)は、仕事上の責任を定年前とほとんど変えず、個々の期待役割に応じて活躍させることを指す。
■ 今後の方向性
高年齢者雇用安定法(高年法)が制定される以前のわが国では、一部の優秀な高齢社員に限り「強い活用」を行い、定年退職後も定年前と同様に活躍(戦力化)させる手法が主流だった。
その後、高年法が制定され、60歳定年の義務化、65歳までの雇用確保措置の義務化など数次にわたる改正が行われた。これを踏まえ、多くの企業は、法令遵守を最優先に、まずは定年後も就労を希望する者を全員一律に「福祉的雇用」することで対応した。しかし、「福祉的雇用」は高齢社員の就労意欲をそぐ等のさまざまな問題も生じさせた。そこで現在は、徐々に活用の強度を高め、「弱い活用」の状態にある企業が多数となっている。
今後は、「強い活用」を目指して取り組んでいくことが企業に求められる。社員の混乱を招くことがないよう、段階的に進めていくことが有益である。
高齢社員の活躍推進にあたっては、高齢社員のモチベーション向上を目的とするのではなく、モチベーション向上によってパフォーマンスを高め、高齢社員の戦力化を図ることが極めて重要である。
(注)内閣府「高齢者の地域社会への参加に関する意識調査」(2013)
【労働政策本部】