経団連および経団連事業サービスは7月14、15の両日、経営法曹会議の協賛により「第122回経団連労働法フォーラム」をオンラインで開催した(7月28日号既報)。今号では、1日目のテーマ「メンタルヘルスをめぐる近年の諸問題とその対策」に関して、経営法曹会議所属弁護士からの報告および参加者との討議の模様を紹介する。
■ 精神障害の労災動向と認定要件
2021年度に労働者災害補償(労災)保険給付の決定を受けた精神障害事案は過去最高の629件に上った。出来事別では、20年に認定基準に追加されたパワーハラスメントを筆頭に、仕事内容・量の大幅な変化、セクシュアルハラスメント等が多い。
労災認定においては、具体的な出来事に応じて心理的負荷の強度を評価する。関連しない出来事が複数ある場合、出来事の数・内容や時間的な近接の程度が考慮される。例えば、精神障害の発病前6カ月以内に、単独では労災に該当しないセクシュアルハラスメントを受けた場合でも、その後に勤務場所の変更であって転居を伴う「転勤」をしたような場合、これらの二つの出来事が近接しているような場合などには、全体で労災に該当する可能性がある。
■ 企業における対策のポイント
労災認定がなされると、企業(使用者)には被災労働者等から労働契約上の安全配慮義務違反や不法行為による損害賠償請求を提起されるリスクが生じる。判例では、労働者が自らのメンタルヘルスに関する情報を申告しない場合でも、使用者に安全配慮義務の履行を求めているため、管理職による業務上の気づきや職場環境の把握・改善といった「ラインによるケア」が重要となる。
メンタルヘルス不調の要因として、最近はハラスメントやテレワークに着目している。企業におけるハラスメント対策としては、厚生労働省の指針も参考に予防、発生、事後・再発防止の各段階で適切な措置を講じる必要がある。裁判例をみると、労災保険の不支給決定の取消訴訟、損害賠償請求訴訟ともに、裁判所はハラスメント発生後の対応を重視する傾向にあるため、事後・再発防止が特に重要となる。事実関係の迅速・正確な確認のために関係者に行うヒアリングで、相談者が行為者に話をしないよう求めた場合、職場全員から話を聴くという対応が参考となる。
テレワークについては、(1)顔を見ての会話・コミュニケーション確保(新入社員、若手社員には特に重要)(2)生活リズムの乱れや長時間労働への対応(3)いわゆる「リモートハラスメント」を含むハラスメント対策――が求められる。
<質疑応答・討議>
参加者から、「精神的に不安定と主張して欠勤するハラスメント加害者に懲戒処分を実施してよいか」「現場職にしか適性のない休業中の従業員がテレワーク(事務職)での復職を求めてきた場合に、それを認めなければならないか」など、実務に基づく質問が多数寄せられ、各弁護士が見解を示した。
【労働法制本部】