21世紀政策研究所(十倉雅和会長)の中国研究プロジェクト(研究主幹=川島真東京大学大学院教授)は7月7日、シンポジウムを開催した。「経済政策」「外交政策」「情報インフラ政策」の分析に続き、これら政策と中国の国家統一の理念との相関性について、川島研究主幹が総括したうえで、パネルディスカッションを行った。会員企業から約200人が参加した。概要は次のとおり。
■ 「資本の無秩序な拡張」の防止~共同富裕と双循環のための民間企業規制(丁可ジェトロ・アジア経済研究所主任研究員)
中国経済における民間企業のシェアは高い。例えば、税収では5割以上、GDPでは6割以上、技術革新では7割以上、雇用は8割以上、「市場主体」数は9割以上とされる。しかし、所得格差の小さい中間層を中心とした「共同富裕」を目指す中国は、一部企業の市場独占は中小企業の衰退を招くと考える。教育費の高騰も機会の不均等を招き、健全な中間層育成を阻害する。
また、経済政策である国外・国内の「双循環戦略」のうち、国内循環を一層加速するため、中国政府は、中小企業や技術開発に対する資金および人材の誘導を図る。
■ 中国外交の現在地~アフガニスタンの事例より(山口信治防衛研究所主任研究官)
中国のアフガニスタンへの関与をめぐる論点は、(1)新疆ウイグル自治区とアフガンのテロリストとのつながりを警戒した国内の安全保障(2)アフガンの鉱物資源や一帯一路構想を含めた経済的利益(3)米国撤退後の地域秩序安定化への関与――に整理できる。このため中国はタリバンに対し、過激派との関係を絶つよう、再三の警告をする一方、アフガニスタン問題に関してパキスタン、ロシア、イラン、中央アジア諸国との多国間外交も行い、周辺諸国との関係を深化・制度化させつつある。このようにアフガニスタンの安定を重要視するものの、現実的な行動とのギャップは大きい。地理的条件やインフラ状況の制約により、経済的・軍事的展開は容易でない。また、これらを克服して介入するほどの利益も見いだせていない。
■ 中国における情報インフラ政策の変遷
(伊藤和歌子日本国際フォーラム研究主幹)
中国が2021年に策定した第14次五カ年計画では、情報インフラの整備が最優先課題とされた。同計画の「情報インフラ」とは、光ファイバーケーブル、マイクロ波、人工衛星、移動体通信などのネットワーク機器や設備であり、16年以降、習近平国家主席が言及している「デジタル中国」の建設の成否を握るとされる。また、投資政策としては、新型インフラ建設に対し21年に3.76兆元の地方政府債券の発行、民間・海外資本による参入の支持を挙げている。情報インフラ政策は、内需拡大政策である一方で、データ規制やセキュリティの観点から規制強化も進める。経済発展と国家安全保障のバランスをどう図るのか、注視する必要がある。
■ 中国の新たな「統一」政策と内外を連関させる視線
(川島真東京大学大学院教授)
中国の新たな統一政策を整理すると次のとおりである。
- 国家の安全のための「空間的な統一」=そのために香港や新疆ウイグル自治区の持つ特権を剝奪する。
- 「地方に対する統一」=地方政府の人事掌握等により中央への集権化を図る。
- 「国家の社会に対する統一」=共産党党員には忠誠心、国民には愛国心を求める。
- 「台湾に対する統一」=ウクライナ戦争による世界情勢の変容は中国にさまざまな教訓を与える。
これら統一政策はあらゆる領域に関係するため、政治と経済の分離も難しい。今秋の党大会以降、統一政策はさらに強化、推進されるだろう。
<パネルディスカッション>
続くパネルディスカッションでは、川島研究主幹をモデレータに、研究委員(講演者)3人が登壇。「中国では、民間企業に対する規制の強化と発展の促進、インフラ整備面では海外資本奨励とセキュリティ規制というように、一見矛盾する政策がバランスをとって行われている」「中国が進めるデジタルシルクロードは、インフラ整備だけでなく、規範やルールも一緒に輸出するはずである」などの指摘があった。
【21世紀政策研究所】