経団連は7月19日、報告書「ライフ・サービス・トランスフォーメーション(LX)~多様な幸せと日常を支える生活サービスの新しいカタチ」を公表した。コロナ禍などにより社会的な不安が高まるなかで、生活者の暮らしに直接つながる生活サービス産業の重要性は高まっている。同報告書では、社会の変化や技術の進展に伴い価値観が多様化するなかで、生活サービス産業の未来像と変革の方向性を示している。概要は次のとおり。
■ 社会の変化とDXの進展
自然災害の激甚化、地政学リスクの高まりなどを背景に、社会の持続可能性への関心が高まり、生活者が求める「価値」は、大量生産・大量消費を前提とした「モノ」にとどまらず、個別化・多様化のもとでのウェルビーイングの実現といった「コト(体験価値)」へとシフトしてきている。こうしたなかで、デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展は、生活者価値の実現を後押しする。従来分離していたオンラインとオフラインを一体でとらえることにより、体験機会の創出が容易となる。また、生活者との接点の拡大によって得られたデータは、さらなる付加価値向上に活用できる。
■ 消費における三つの新たな価値軸
生活者の価値観の多様化は、消費における新たな価値軸として表れてきており、(1)個々人向けに最適化された消費としての“パーソナル”(2)社会の課題解決に貢献する消費である“エシカル”(3)自分のお気に入りやこだわりへの消費としての“プレミアム”――に大きく分類できる。
■ 生活サービス産業の課題
コロナ禍は、対面前提の事業に依然影響を及ぼしており、生産性向上の観点からもビジネスモデルの変革が求められている。一方で、デジタル技術の活用は加速化しており、産業全体でDX進展に対応することが急務である。また、少子高齢化により国内市場が縮小するなかで、人生100年時代を見据えた商品やサービスの創造に挑むことは、社会課題解決を通じた新たな成長モデルを世界に先駆けて構築するチャンスととらえることもできる。
■ 生活サービス産業の未来ビジョン
2020年に経団連が取りまとめた「。新成長戦略」では、「Society 5.0 for SDGs」による30年の未来社会を実現するうえで、生活者などマルチステークホルダーの多様な価値の包摂と協創がカギであるとした。この点において、生活者との協創をもたらす生活サービス産業が果たす役割は大きく、その変革はDXやグリーントランスフォーメーション(GX)に匹敵するほどの波及効果が期待できる。このため、生活サービス産業の変革を「ライフ・サービス・トランスフォーメーション(LX)」と称し、生活者目線で、多様な幸せと日常を支える商品・サービスの選択肢を提供するよう求めている。
LXに向けて、三つの視点が重要である。第1は「生活者との継続的な接点」の拡大・強化・深化である。接点を通じて得た関係性やストーリーの活用により、生活者の共感を呼ぶ個別化されたサービスモデルが可能となる。第2は、衣・食・住をはじめとする暮らしの各分野、あるいはパーソナルをはじめ消費の三つの価値軸などにおいて「多様な掛け合わせ」を図ることで、新たな需要の拡大や価値の創出へとつなげていくことである。第3は「『循環』による協創」である。生活者との接点や掛け合わせで生まれたデータ循環、二次流通市場への商品循環、副業や兼業による人材循環などを強化し、企業や生活者それぞれの協創を進めていく必要がある。
■ 今後取り組むべきアクション
政府は、LXを成長戦略の柱とする政策を推進すべきである。また、循環を前提とした生活サービス産業の経済規模を示すため、経済指標における二次流通の取り扱い等について検討が必要である。
企業には、資金や人材の循環、積極的な協創への取り組みが求められる。スタートアップには、大企業との協創や交流の活性化が期待される。また、LXの推進による産業変革のリード役となるよう、政府や企業がスタートアップへの振興策を講じていく必要がある。
【産業政策本部】