経団連の環境委員会国際環境戦略ワーキング・グループ(手塚宏之座長)は6月17日、オンラインで会合を開催した。経済産業省産業技術環境局の中原廣道環境政策課長から、EUにおいて導入に向けた検討が進められている炭素国境調整措置について説明を聴くとともに、意見交換した。概要は次のとおり。
■ 検討の状況
炭素国境調整措置(Carbon Border Adjustment Mechanism、CBAM)は、2021年7月に欧州委員会が提案した気候変動政策パッケージ「Fit for 55」に含まれる施策の一つである。鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料、電力に関するEU域内への輸入品について、製品単位当たりの炭素排出量に基づくCBAM証書の購入を輸入者に課す仕組みとなっている。
現在、欧州議会において、欧州委員会が提出したFit for 55関連法案の審議が進められている。議会の環境・公衆衛生・食品安全委員会(ENVI)は、CBAMの対象となる排出・業種の拡大、排出量取引制度(EU-ETS)排出枠の無償割当廃止時期の前倒し(2035年から30年へ)等を含む修正案に合意した。しかし、22年6月8日の欧州議会本会議で、EU-ETSの無償枠の廃止時期をめぐって議論が決裂し、ETS法案が否決されたことにより、CBAMについてもENVIに審議が差し戻された(その後、6月22日の欧州議会本会議において、無償枠割当廃止時期を32年とする妥協案を採択)。
なお、この議会プロセスの後には、欧州理事会との協議が行われる。欧州理事会は、もともとの欧州委員会案とほぼ同内容の仕組みですでに合意していることから、今後の議論も難航が予想される。
■ 日本への影響
CBAMのもともとの対象品目である鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料について、日本からEUへの輸出量はごくわずかであり、直接的な影響は小さいと考えられる。しかし、第三国からEU向けに輸出されていた製品が、日本国内および日本の主要輸出先である東南アジア等に流入することで、マーケットシェアの低下といった、間接的な影響の及ぶ可能性が懸念される。
また、欧州議会が提案している追加の対象製品のうち、アンモニア、水素、有機化学品については、同様に輸出量がごくわずかであるため、直接的な影響は小さいと考えられる。ただし、いわゆるブルーアンモニア・ブルー水素などの輸入時の課金のための排出量算定方法が厳しく設定されることとなれば、市場形成が阻まれる可能性もある。一方、ポリマー(プラスチック等)については、他の製品と比較し、EU向け輸出金額が大きく、直接的影響も懸念される。
日本政府は、EUと適時コミュニケーションを取っている。日本の産業界として、CBAMに対する問題意識があれば意見を寄せてほしい。
【環境エネルギー本部】