経団連は6月2日、公安調査庁と経済安全保障シンポジウムを共催した。東京・大手町の経団連会館とオンラインで合わせて約470名の日米の政府・企業・大学関係者が出席した。開会あいさつの概要は次のとおり。
■ 古川禎久法務大臣
ロシアによるウクライナ侵略を受け、経済安全保障の重要性があらためて認識されている。
わが国でも、経済安全保障推進法を成立させるなど、政府を挙げて経済安全保障の確保に取り組んでいる。公安調査庁では、技術・データ等の流出防止に資する情報を収集・分析し、関係機関に提供すること等を通じて、経済安全保障の確保に貢献してきた。
しかし、技術流出の防止には、政府だけではなく、企業や大学とも連携し、官民一体で取り組むことが不可欠である。
また、グローバル化が進む状況下で経済安全保障を確保していくためには、国際的な連携、とりわけ米国をはじめとする法の支配、基本的人権の尊重等の基本的価値を共有する国々との連携や知見の共有が重要である。
■ ラーム・エマニュエル駐日米国特命全権大使
日米は世界最大の自由市場経済大国である。両国の企業が互いの利益のために協力できるのは、企業の成長と投資を促進する、法の支配・透明性等の価値観と原則を共有しているからだ。
イノベーションを育む自由な発想を促すのは開放性であるが、この開放性を利用し、われわれから技術等を盗むことで優位に立とうとする国がある。産業スパイ、知的財産の窃盗、データヘの不正侵入等が常套手段である。企業や生活への脅威が現実のものとなるなかで、われわれの経済的地位と利益、そして未来を守るためには、技術と知的財産を保護する社会全体のアプローチが必要である。経済安全保障とは、企業・政府等が単独で取り組むものではない。産学官に加え、国際パートナーを含めた関係者の連携が必要であり、そのためには互恵的な信頼関係の構築とコミュニケーションが不可欠である。
■ 大林剛郎経団連外交委員長
現在の厳しい国際情勢のなかでは、経済と安全保障を切り離して考えることはもはや不可能であり、経団連は経済安全保障を重要な課題として認識している。
先般の日米首脳会合でも、経済安全保障について議論が行われた。その余韻が残るなかで、日米の政府だけでなく経済界も膝を交えて経済安全保障に関して問題意識を持ち寄り、情報を共有するのは、非常に有意義である。
わが国企業は、これまでも技術やノウハウを営業秘密として管理することで、技術流出の防止に努めてきたが、昨今は、国家が関与するサイバー攻撃をはじめ、技術の窃取手段が高度化している。
経済安全保障の一翼を担うべき経済界としては、一層リスク感覚を研ぎ澄ませ、積極的な対策を講じなければならない時代になったと感じている。しかし、特に国家が関与する情報窃取に、一企業だけで立ち向かうのは困難であることも事実である。政府は、必要な情報等を共有するとともに、情報窃取等を行う者への取り締まりの強化にも、引き続き取り組んでほしい。
■ 和田雅樹公安調査庁長官
公安調査庁は、経済安全保障の確保に向けた取り組みを強化しており、22年4月には「経済安全保障特別調査室」を立ち上げた。
わが国から技術等が流出した場合、各企業や大学に不利益があるとともに、外国における軍事研究・兵器開発への転用等、わが国の安全保障にも影響を与えるおそれがある。技術等の流出リスクは、社会経済活動のさまざまな場面に存在するため、社会全体でこうしたリスクを意識し、連携のうえ、おのおのの立場から技術等の流出防止に向けて取り組むことが極めて重要である。今回披露される日米それぞれのさまざまな知見が、企業・大学関係者の皆さまにとって各種対策をとるうえでの一助となれば幸いである。
公安調査庁では、企業・大学向けの相談・連絡窓口を設けているので、利用してほしい。
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開会あいさつに続いて、米国司法省連邦捜査局(FBI)や公安調査庁、企業の代表者が技術流出の防止に向けた取り組みをそれぞれ紹介するとともに、出席者との間で意見交換した。
【国際経済本部】