経団連のアメリカ委員会連携強化部会(吉川英一部会長)は4月21日、モーリーン・アンド・マイク・マンスフィールド財団理事長・最高経営責任者のフランク・ジャヌージ氏が来日した機会をとらえ、東京・大手町の経団連会館で懇談会を開催した。ジャヌージ理事長の説明の概要は次のとおり。
■ 中国の台頭
冷戦後の地政学上の重要な出来事は、中国の台頭である。中国のGDPは30年間で年平均10%成長し、米国に代わり、最大の貿易大国になった。中国の銀行は時価総額で欧米の銀行に匹敵するようになっている。また、中国の軍事費は10年間で、年平均15~20%程度伸び続け、現在の予算は約2300億ドルに上る。近代的な装備で軍隊を強化するとともに、ファイアリー・クロス礁などに施設を設置し、東シナ海、南シナ海、インド国境で領有権を主張している。
経済力と軍事力の強化によって、これまで米国の指導力が揺るぎなかった地域で、その存在感を発揮してきている。2013年に習近平国家主席が発表した中国の一帯一路構想は、地球表面の40%に相当する65カ国をカバーする。中国の経済的優位性を利用し、インフラ整備、貿易・投資といった経済的な関係強化のみならず、小国からの支持を得ようとする政治的な側面を有している。
また、近年、中国はエネルギー不足の問題に対し、一帯一路構想の一環として、化石燃料の安定供給源の確保に注力している。同時に、風力や太陽光などの再生可能エネルギーに投資しており、世界最大の投資国となっている。
しかし、中国の台頭は、永久に続くものではないだろう。新型コロナウイルス、少子高齢化による景気後退、エネルギー不足など、さまざまなリスク要因がある。さらに、中国政府の情報統制への執着が情報の自由な流通を阻害し、イノベーション創出の障害となり得る。
■ 米国の対中戦略
バイデン政権は、中国に対し「友」でも「敵」でもないスタンスを取っている。1979年に米中両国が国交を樹立した際、米国は大いに歓迎したが、現在では、中国が国際規範を脅かし得る存在であることを明確に認識している。しかし、バイデン大統領は楽観的な人物であり、万人の善意を信じているが、世界には悪意があることも認識している。中国に対しても同様に、ウイグル族に対する大量虐殺や香港での人権弾圧などを非難する一方、気候変動など、共通の関心分野を模索してきた。
バイデン大統領の外交戦略として、中国への影響力を強化するため、QUAD(日米豪印戦略対話)、AUKUS(米英豪によるインド太平洋の安全保障枠組み)、日米韓トライアングルなど、インド太平洋地域の主要国とのアライアンスを強化している。中でも日本は極めて重要なパートナーであり、日米関係の強化に注力している。ウクライナの事案もあり、その重要性はさらに高まるだろう。
他方、CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)については、バイデン大統領は上院議員時代に自由貿易協定の推進派であったものの、自由貿易の恩恵が米国民に公平かつ均等に分配されていない課題も認識している。米国の加盟には、米国内で自由貿易協定に対する政治的支持が再び得られるまで待たねばならず、日本の後押しに期待したい。
【国際経済本部】