日本とスロバキアの研究者・研究機関の協力は、すでに目に見える成果を上げている。大学間の学術交流は長い伝統があり、特に、ブラチスラバのコメニウス大学は、最も活発な学術交流の場となっている。
しかし、スロバキア側の協力の主体はスロバキア科学アカデミー(SAS)であり、研究機関網を持つ日本は重要な戦略的パートナーである。共同プロジェクトは、主に自然科学と現代技術(医学、バイオテクノロジー、環境、新素材の開発)に重点を置いており、社会・人文科学の分野での協力はあまり進んでいない。このため、これらの分野での進展が今後の課題である。
SASと日本学術振興会(JSPS)との交流プログラムによる二国間協力は、1993年締結の「科学者の交流に関する覚書」から始まった。SASがV4-日本共同研究プログラムおよびThe European Interest Group(EIG)CONCERT-Japanという国際的なパートナーシップに参加することにより、日本との多面的協力が成り立っている。
2014年9月23日、ブラチスラバにおいて、科学・技術協力に関する覚書(MoC)が締結された。これは、日本とV4諸国の持続可能な成長の実現、科学・技術・イノベーション能力の強化および共同研究プロジェクトを支援する新たな資金プログラムの確立を目的としており、物質科学、特に新素材での協力が焦点となっている。
18年10月18日の第2回「V4+日本」サミットおよび20年1月21日の日本・ポーランド首脳会談において、安倍晋三内閣総理大臣(当時)によってV4-日本間の協力に向けた新たなハイレベルな働きかけが行われた。五つの国内資金調達機関と国際ヴィシェグラード基金が共同で取り組んだ結果、21年1月に五つのSAS研究機関が参加して、第2回共同募集プログラムが開始された。研究課題は、炭素系材料、半導体、ガス検知用材料、量子ベース検出器、先端マグネシウム合金といった、いわゆる先端材料に関連したものである。
日本の科学団体との協力関係が深まった結果、SASは欧州連合第7次枠組み計画(FP7)ERA-Net CONCERT-Japan(2011-2014)のコンソーシアムとして招聘された。このプロジェクトが成功裏に終了した後、コンソーシアムは自立した組織(EIG CONCERT-Japan)となった。EIGは、科学・技術・イノベーション(STI)分野における欧州諸国と日本との協力関係を支援、調整、強化することを目的としている。第9回共同公募は22年5月に開始される予定で、募集テーマは「原子レベルの精度での材料設計」である。
SASの二国間・多国間協力とは別に、SASの研究者や組織は、他の国内・国際制度を通じて資金提供される二国間・多国間研究プロジェクトで日本と協力している。
より実践的な最先端協力の顕著な例として、スロバキアに本社を置くESETの活動が挙げられる。ESETジャパンは、03年のキヤノンとの提携により日本での事業を拡大するとともに、現在、39万1000社以上を保護する国内最大級のサイバーセキュリティソフトウエアベンダーに成長し、企業や消費者から高い評価を受けている。
- V4+日本~長い歴史と未来の科学研究協力への大きな可能性(全5回)
- 〈1〉V4諸国の科学技術政策の概要
- 〈2〉ハンガリー~未来を牽引するバッテリー産業
- 〈3〉スロバキアと日本の科学技術協力
- 〈4〉チェコ~活発化する日本との科学技術提携
- 〈5〉ポーランド~日本の戦略的研究プロジェクトを支える研究者たち
- 〈2〉ハンガリー~未来を牽引するバッテリー産業