4月28日、ドイツのオラフ・ショルツ首相の来日に際し、都内で日独ビジネス・ダイアログが開催された。ペーター・アドリアン・ドイツ商工会議所連合会会頭ならびに東原敏昭経団連副会長の歓迎あいさつに続き、ショルツ首相が基調講演を行った。概要は次のとおり。
■ 東原副会長あいさつ
新型コロナウイルスの終息が見通せず、ロシアがウクライナに侵攻するという厳しい情勢のなか、G7議長という重責を担うショルツ首相に敬意を表する。日本はドイツをはじめとするG7諸国、国際社会と結束し、断固たる姿勢を堅持する必要がある。
ロシアのウクライナ侵略は、エネルギーの安全保障の重要性をあらためて浮き彫りにした。エネルギー供給源の多様化、サプライチェーンの強靱化が重要な課題である。万が一同様の事態がアジアで起きた場合を想定した対策さえ必要になっている。
エネルギー安全保障の問題は、気候変動対策とも密接に関連する。カーボンニュートラルに向けて円滑なエネルギー・トランジションを実現するためには、天然ガスの安定供給確保と、省エネ技術開発が不可欠で、特にアジアにおける脱炭素化が重要である。6月のG7サミットでのショルツ首相のリーダーシップに期待する。
■ ショルツ首相講演
1.ロシアのウクライナ侵攻
日本がG7の一員として、ロシアによるウクライナ侵攻に対して毅然とした態度で臨んでいることを評価する。岸田文雄内閣総理大臣がG7緊急首脳会議(3月、ブリュッセル)に参加したこともその証左である。ロシアによる暴挙は、食料、エネルギーの不足や物価高騰などを惹起しており、ウクライナのみならず国際社会全体にとって脅威である。また、人権という普遍的価値に対する挑戦であることは言うまでもない。今こそ自由、法の支配、民主主義を守るという普遍的な使命に向けて国際社会が結束しなければならない。
2.新たなグローバリゼーション
世界は今、1930~40年代のブロック経済以来、最大の分断に直面している。債務問題、インフレなどが要因で各国が内向きになり、もはや、自由で開かれた市場が当たり前ではなくなっている。新型コロナの感染拡大がこれに拍車をかけるなか、「脱グローバリゼーション」すなわち、デカップリング、保護主義が正当化されないよう注意が必要である。貿易立国である日独にとって必要なのは、ルールに基づく、持続可能で、かつ、すべての人が恩恵を受ける「新たなグローバリゼーション」である。これは岸田首相が掲げる「新しい資本主義」にも通じる。
「新たなグローバリゼーション」のためには次の4点が求められる。
(1)共通の価値観
日独はともに開かれた国であり、このような共通の価値観を有する国と相互依存関係を構築する必要がある。現在、日本では経済安全保障の議論が活発であり、同様にドイツでもサプライチェーンの多角化と強靱化が重要課題となっている。日本はもとより、豪州、ニュージーランド、インド、韓国などとの連携を強化する。(2)ルールに基づく貿易
日EU EPAは保護主義を防止するためのルールのみならず、社会や環境に関する取り組みについても定めている。これこそがわれわれが直面している課題に対する答えである。(3)経済のデジタル化
日独が将来にわたって優位な立場を維持するためには経済のデジタル化が不可欠である。ドイツはIndustrie 4.0、サイバーセキュリティの強化、行政の電子化、5Gをはじめとするデジタル・インフラの整備を進めており、これらすべての分野で日本との協力が可能である。その際、重要なのが、共通の価値観に基づくデータの流通、処理、保護である。(4)気候変動問題
地球を持続可能なかたちで次の世代に引き継ぐためには、気候変動対策をコストとみなすのではなく、経済成長のチャンスととらえるべきである。日独はエネルギー原単位で世界のトップランナーであり、技術の面で協力を推進していきたい。また、日独のように野心的な排出削減目標を掲げている国から産業が流出する「カーボンリーケージ」を阻止する必要がある。G7議長国としてドイツはClimate Clubの創設を推進している。Climate Clubは、特定の基準を満たすすべての国が参加できるオープンなものを想定している。
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日独は地理的には遠いが、過去に例がないほど緊密な関係にある。それはわれわれが価値観を共有するからにほかならない。
【国際経済本部】