経団連は3月9日、アメリカ委員会(早川茂委員長、植木義晴委員長、永野毅委員長)をオンラインで開催した。戦略国際問題研究所(CSIS)のマシュー・グッドマン上級副所長から、米国のインド太平洋戦略について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 米国の政策課題とインド太平洋地域の重要性
バイデン政権は、米国の経済力再建(Build Back Better)や、気候変動への対応、技術分野等における中国との競争を政策の優先課題に据えている。これらの課題に取り組むための力となるのが、同盟国やパートナー国との協調である。バイデン大統領は、特に、インド太平洋地域の国々との連携を重視している。インド太平洋調整官という役職を新設して元米国務次官補(東アジア・太平洋担当)のカート・キャンベル氏を任命していることに加え、日米豪印の枠組みであるQUADとの連携、ワシントンでのASEAN首脳会議の開催に意欲を示していることがその証左である。
■ インド太平洋戦略の概要
インド太平洋戦略は、ホワイトハウスが今年2月に発表した。そのなかには、安全保障の確保等を含む、米国の幅広い政策課題が記載されている。経済に関する記述は最も短いが、同地域におけるルールに基づく自由で開かれた経済秩序の重要性などが指摘されている。
また、経済に関しては、同戦略の公表に先立ち、昨年10月の時点で「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)が発表されている。IPEFで取り組むべき具体的課題については、米国通商代表部(USTR)年次報告のなかで、(1)公正で強靱な貿易(2)サプライチェーンの強靱性(3)インフラ、脱炭素、クリーンエネルギー(4)税と腐敗防止――の4つの柱が示されている。(1)のみ、USTRが担当しており、公正で強靱な貿易の達成に向けて取り組むべき個別項目として、労働、環境、デジタル、競争政策、貿易円滑化等が列記されている。(2)(3)(4)は商務省が管轄し、それぞれ、(2)敵国(中国・ロシア等)への重要技術の移転を防ぐための投資管理・輸出管理の推進、(3)脱炭素に向けたインド太平洋地域におけるインフラ整備、(4)官民を挙げた腐敗防止対策の強化――が盛り込まれている。この分担に鑑みて、インド太平洋戦略にかかわる経済政策の今後の展開については、レモンド商務長官の動きを十分注視していく必要がある。
■ インド太平洋戦略の今後
今後の注目点は、米国のこうした取り組みに、どれほどの国が参加するかである。米国は、8から9の同盟国・パートナー国の参加を期待しているようだ。日本、豪州、ニュージーランド、韓国、シンガポールに加え、インドネシア、タイ、マレーシア、インド等も参加の可能性がある。しかし、米国が市場アクセスの拡大を戦略として打ち出していないなか、各国が参加のメリットを見いだすかどうかは疑問である。通商交渉は、通常、市場アクセスを拡大することと引き換えに、参加国に協定のルールを受け入れさせる構造を取る。しかし、バイデン政権は、議会の承認が必要となる関税の引き下げは検討していない。そのため、特に東南アジアの国々やインドなどが枠組みに参加するかどうか、今後注目される。さらに、こうした省庁横断的な課題を誰が束ねるのかも重要な問題である。適切な人選が、信頼に足る取り組みとなるかどうかのカギとなる。米国のインド太平洋戦略が永続するかどうか、今後の動向を注視したい。
【国際経済本部】