経団連は2月24日、人口問題委員会企画部会(手島恒明部会長)をオンラインで開催した。中京大学現代社会学部の松田茂樹教授から、「少子化の背景要因と対策のあり方~『総域的な少子化対策』の推進を」と題し、日本における少子化進行の要因とこれまでの対策への評価、今後の対策のあり方について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 日本の出生率の推移とその特徴
日本の出生率は、2000年代半ば以降ゆるやかに回復しつつあったが、ここにきて再び下落傾向にある。
1970年代以降、未婚化の進行が出生率を低下させてきた。さらに2000年代半ば以降、夫婦が持つ子どもの数が減少し、出生率はより一層低迷している。
■ 出生率低迷の背景・要因
欧米では未婚のまま出産するケースが多くみられる一方、日本では結婚してから出産する経路が大多数である。このため、未婚化が進むと、出生率が低下する。未婚化・少子化進行の背景としては、「雇用・経済情勢の悪化」や「進学競争の激化、教育費負担の増加」、「仕事と育児の両立の困難」といったさまざまな課題がある。未婚化・少子化の要因を特定の1つに絞れるわけではない。
■ これまでの少子化対策の流れ
日本の少子化対策は、1.57ショックを契機に1990年代からエンゼルプランなどの保育中心の対策が本格的にスタートし、保育や仕事と育児の両立支援を中心に展開された。近年、結婚・妊娠・出産の支援、地方創生、幼児教育の無償化等にも少子化対策の幅が広がりつつある。しかし、その恩恵は保育所整備の進む大都市に住む一部の子育て世帯が受けるにとどまり、出生率の回復にはつながっていないと考えられる。
■ 求められる少子化対策の方向性
結婚観・家族観が多様化するなかで、国民が皆結婚し、第2子までの出生を目指すことは現実的ではない。それよりも、結婚・出生を希望しない人はその選択をして、結婚・出生を希望する人はその希望をかなえること、そのときに多子世帯が現在よりも増えることが望ましい。また、少子化の要因は多岐にわたるため、今後の対策も、幅広い視点から総域的に対応すべきである。そのため、共働き世帯、片働き世帯、ひとり親世帯などのすべての世帯を対象に、結婚前、結婚、妊娠、出産、子育て、教育、子どもの自立までの全ライフステージを支援することが重要である。具体的には、若者の雇用安定や児童手当の拡充による経済的負担の軽減などの幅広い施策を展開する必要がある。
少子化対策のさらなる拡充によって、家族関係社会支出の対GDP比を現在の1.9%から諸外国並みの3%に引き上げるべきである。社会全体で子どもを支え、世代間で助け合う視点から、その費用を消費増税等による税財源で確保すべきである。子育て世帯には、その負担増を緩和する観点から、経済的支援を拡充する必要がある。
【経済政策本部】