経団連は1月28日、東京・大手町の経団連会館で知的財産委員会(東原敏昭委員長、時田隆仁委員長)を開催した。内閣府の田中茂明知的財産戦略推進事務局長から、知的財産推進計画2021の推進状況と今後の課題について説明を聴いた。概要は次のとおり。
政府の知的財産戦略本部(本部長=内閣総理大臣)は昨年7月、知的財産推進計画2021を決定した。同計画では、新型コロナウイルス後のデジタル化・グリーン化競争を勝ち抜くには、知財・無形資産(注)の活用がカギになるが、わが国の知財・無形資産投資は諸外国と比べ低迷しており、活性化が必要と認識している。現下の主要な課題は以下のとおりである。
第1は、知財・無形資産の投資活動の活性化である。昨年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)に、知財投資戦略の開示やその取締役会による監督強化が明記された。これへの対応のあり方を示すものとして、投資家・IR関係者等による検討会が「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」を取りまとめ、本日公表する。同ガイドラインを参照することで、効果的な開示・ガバナンスが投資家から評価され、その結果企業の評価が高まり、資金調達で有利になる企業が増えていくことを期待したい。
第2は、国際標準の戦略的な活用である。世界の有力企業が標準戦略を競争手段として積極的に活用するなか、わが国でも、標準戦略の活用能力を引き上げることが急務であり、重点分野で官民連携を進めていく。今後、科学技術・イノベーション関連施策の執行プロセスにおいて、企業側の競争戦略と標準戦略を明確にするとともに、実行体制確立への経営コミットメントを確認する仕組みを導入していく。官民対話の取り組みも進めたい。
第3は、データ利活用の推進である。知財戦略において、データ利活用を推進する環境の整備は喫緊の課題である。政府は、昨年6月に閣議決定した「包括的データ戦略」等に基づき、分野別および分野間のデータ流通の基盤を構築する際に、基盤ごとに定めるデータ取り扱いルールの実装ガイドラインを近く公表する。
第4は、デジタル時代に適合したコンテンツの利活用促進である。昨年の計画では、著作権の簡素で一元的な権利処理が可能となる制度改革の実現を決定した。昨年12月の文化審議会の「中間まとめ」では、著作物の一元的な窓口組織や分野横断データベースを設け、新しい権利処理の仕組みを実現する方針を打ち出した。来年の通常国会に著作権改正法案を提出する予定である。
第5は、スタートアップをめぐる知財エコシステムの強化である。近年、ディープテック分野のベンチャー投資が増えるなか、知財戦略がスタートアップの企業価値を決めるうえで重要になった。スタートアップ、ベンチャーキャピタル、知財戦略専門家の結合、大学、大企業の知財の活用を図るうえで必要な課題を検討していく。
(注)特許権や著作権などの知的財産権から、技術やデータ、顧客ネットワークなど物理的形状を持たない無形資産まで幅広く含む
【産業技術本部】