経団連は1月25日、社会保障委員会年金改革部会(橋爪宗一郎部会長)を開催した。早稲田大学法学学術院の菊池馨実教授から、「全世代型社会保障と公的年金制度の課題」について説明を聴いた。概要は次のとおり。
■ 社会保障の目的のとらえ方
伝統的な社会保障は、憲法25条(生存権)を根拠として、国民の生活保障を目的に、老齢・障害・失業・生活困窮などの要保障事由(社会的リスク)に際しての給付とされてきた。
しかし、格差の固定化、相談支援の必要性が高まるなかで、個人の自律を基盤に、憲法13条(幸福追求権)を根拠として、社会保障を人の発達・成長そのものを支える仕組みとしてとらえるべきと考える。
■ 全世代型社会保障の推進
社会保障の持続可能性を高めるために、社会的基盤、市民的基盤の脆弱化に対応して、全世代型社会保障を推進する必要がある。
社会的基盤のうち、家庭では、単身世帯や高齢者世帯が増加している。企業の役割も変わりつつある。非正規雇用や自営業的就業が増加するなか、これまで企業が担ってきた住宅手当等の福利厚生を国の仕組みにシフトする必要がある。一方で、事業主拠出金や、被用者保険の適用拡大等、社会保障の費用負担者としての企業の役割は不可欠である。
市民的基盤においては、社会保障に対する信頼感、公平感が失われてきている。世代間対立を助長する制度の見直しを避け、世代間公平を確保するとともに、社会保障制度全体で貧困・格差対策を進め、中間層以上の負担感が過剰にならないよう、世代内公平も確保する必要がある。
■ 次期公的年金制度改正の課題
2024年財政検証では、コロナ禍における出生率のさらなる低下等により、厳しい将来見通しが想定される。すでに社会保障審議会年金数理部会では、20年12月に19年財政検証のピアレビュー(※)において、将来の基礎年金水準の低下に対応するための追加試算を行っており、次期改正の主要な検討課題になるものと考える。
具体的には、まず、基礎年金と厚生年金の給付調整期間の一致が挙げられる。04年改正で導入されたマクロ経済スライドは、基礎年金と厚生年金の給付調整が同時に終了するのが前提だった。しかし、両者の調整期間が乖離するなかで、基礎年金の給付調整が長期化し、給付水準も一層低下する見込みとなった。調整期間を一致させることで、基礎年金の目減りを確実に防ぎ、被用者も含め、低中所得層の年金水準の低下を抑止する効果が期待できる。
次に、基礎年金拠出期間の45年間への延長が考えられる。しかし、増額する基礎年金の国庫負担分の財源確保は難問であり、保険料財源のみで賄う可能性もあるが、実現性には疑問が残る。
このほか、被用者保険の適用拡大も重要である。20年改正により、従業員数が51人以上の企業や、いわゆる「士業」も適用対象となる予定である。さらに、企業規模や非適用業種等の基準を見直す必要がある。加えて、遺族年金の男女差を解消する方向の見直し等も、今後の課題である。
※ 財政検証結果の事後検証。公的年金制度の安定性の確保に関する検証が行われる
【経済政策本部】