経団連と数学界は11月10日、第3回数理活用産学連携イニシアティブをオンラインで開催した。同イニシアティブは、産業界の数理活用という新しいかたちの産学連携を模索する枠組みである。京都大学大学院理学研究科数学・数理解析専攻の坂上貴之教授から、「流れのトポロジー解析による数理・産業連携~Math Clinicを通じて」をテーマとする説明を聴くとともに意見交換した。概要は次のとおり。
■ 数理科学による社会課題の解決
データ科学にはさまざまなボトルネックが存在する。複雑すぎるデータやノイズの多いデータなどは、効率よく使いこなすことができないケースも多い。数理科学を適用することで、データに潜む数理構造が抽出されて、社会課題の解決策が見いだされるなど、データの有効活用が図られる。
社会課題解決のために数理科学を用いる際、二つの大きなポイントが存在する。一つは、数理課題抽出の「壁」と呼ばれるものである。社会課題から数理課題を抽出し、数理科学研究へ持ち込むフェーズにおいて、社会課題側ニーズと数理側シーズとの間で十分に対話し、数学でできること・できないことについて、相互に理解することが求められる。もう一つは、数理研究実装の「谷」と呼ばれるものである。数理研究の成果を社会実装するフェーズにおいて、数学者側と社会実装側に、数理技術の実装に関する高い専門性が求められる。双方にその専門性が欠如していることで、どの分野の誰にコンタクトすべきかわからない、投資効果に見合った成果がどの程度になるか見積もりにくいといった問題が生じる。
■ Topological Flow Data(TFD)解析
TFD解析(流線トポロジー解析)で扱う数理科学は、つながり方で図形を区別する幾何学のトポロジーと、変化するものを記述する力学系理論である。
TFD解析は、“流れのかたち”に関する情報を文字列化することで、流れに関するさまざまな分野の横断的な共通言語として、文字列表現を用いた流れの情報のデータマイニングに利用できる。加えて、この先に起こり得る流れパターンの変化の予測も可能にする。従来の手法で見えない経験的知識を数学化することにより、新しい知見の抽出を可能とし、データ解析のボトルネックを解決する数理手法である。長期の異常な気候変動や海洋の変動に関する解析、心血流エコー画像の解析、産業機械の最適形状開発など、さまざまな領域で利用されている。
■ Math Clinic(数学よろず相談室)
Math Clinic(数学よろず相談室)を設置し、TFD解析を展開するための連携コンサルティング事業を行い、諸分野での数理活用に関する質問を随時受け付けている。諸分野と連携するうえでの障壁を取り除くため、ニーズ発掘とシーズ展開、数学研究者との連携確保、数学と諸分野の間の橋渡しなどを行っている。過去5年で複数の案件が共同研究に移行している。連携先は企業や公益法人、医療など、数理の水平展開力によって、さまざまな分野に展開されている。将来的にはコンサルティングプラットフォームをつくりたい。
【産業技術本部】