経団連は10月28日、雇用政策委員会人事・労務部会(小野澤康夫部会長)をオンラインで開催した。東京都立大学大学院経営学研究科の高尾義明教授が「組織メンバーの主体性発揮・働きがい向上に向けたマネジメント施策~ジョブ・クラフティング理論からヒントを探る」をテーマに講演した。概要は次のとおり。
■ 働き方の変化が要請するもの
企業における働き方改革により、業務の効率化が進むとともに、多様性を尊重するための働き方の柔軟性が増している。特にコロナ禍においてテレワークが急速に普及した。こうしたなか、企業では、「自律的な働き方への期待」が高まる一方で、「コミュニケーションの希薄化」が問題となっている。そのため、組織においては、変化に対応できるマネジメント力の強化が不可欠となる。一方、働き手には、働きがいをセルフ・プロデュースする力の向上が求められている。
■ ジョブ・クラフティングの考え方
組織と働き手が直面する課題の解決には、「ジョブ・クラフティング」が有効である。ジョブ・クラフティングとは、働く人一人ひとりが、主体的に仕事や職場の人間関係に変化を加えることで、自らの仕事の経験をつくり上げていくことである。
具体的には、(1)業務の内容や方法に変更・工夫を加える「業務自体」のクラフティング(2)仕事の遂行に関連する他者(同僚、上司、顧客等)との関係性・関わり方を変える「関係性」のクラフティング(3)個々の業務や仕事全体の意味・目的のとらえ方を変える「仕事のとらえ方」のクラフティング――の3種類がある。
これらを普段の業務遂行に取り入れることで、働き手のエンゲージメントが高まり、チーム・組織の成果や、個人のウェルビーイング(幸せ感)の向上につながる。
■ マネジャーに求められるもの
ジョブ・クラフティングの促進に向けて、現場のマネジャーは、まず、自身でジョブ・クラフティングを実践することが求められる。そのうえで、マネジメントの手法を従来の上意下達から、1 on 1の活用によるコーチングへの転換を図り、部下の主体性を尊重する姿勢を示すことが重要となる。加えて、過度な負担とならない範囲で個々の職務自律性を高めながら、相互にサポートし合う職場風土を醸成することが肝要である。
他方、ジョブ・クラフティングが行われるなかで、業務が独り善がりになり、「自分事」化してしまうリスクがある。こうした状況に対処するため、組織・部門のミッションやビジョンを踏まえて、許容されるジョブ・クラフティングの範囲を共有しておく必要がある。
■ 組織的施策への落とし込み
ジョブ・クラフティングを組織の施策に落とし込むためには、メンバーの主体性発揮の促進およびそれを支える職場風土づくりに対するマネジャーの貢献をしっかりと評価することが有効である。また、社内公募制や副業の解禁、「手挙げ文化」の醸成など、主体性発揮を促す人事制度・マネジメント施策を取り入れることも一案である。加えて、経営理念(パーパス)の浸透を推し進めることが望ましい。
今後のマネジャーの課題は、ジョブ・クラフティングをキーワードとして、働き手が「働きがい」をセルフ・プロデュースする力の向上を支援することである。人事部門には、制度面からマネジャーを支援することが求められる。
【労働政策本部】