経団連自然保護協議会(二宮雅也会長)は10月5日、駐日英国大使館と共催で「生物多様性の経済学~ダスグプタ報告書」に関する懇談会をウェビナーで開催した。同報告書は、生物多様性を経済学の観点から分析したもので、6月のG7サミットで採択された「2030年自然協約」でも言及されている。
冒頭、二宮会長とジュリア・ロングボトム駐日英国大使、奥田直久環境省自然環境局長があいさつ。二宮会長は、「日本でも生物多様性への関心は高まりつつあるが、事業活動に取り込むには、気候変動と異なり計測可能な指標がない。報告書では自然資本について、会計価格や包括的富といった考え方を提示しており、企業への示唆となる」と述べた。
ロングボトム氏は、「英国政府は、30年までに少なくとも30%の陸海域を保全(30by30)し、自然に根ざした社会課題解決策(Nature-based Solutions〈NbS〉)に対し5年で30億ポンドの投資を決定した。同報告書は、私たちが緊急に行動を起こす必要があることを示している」と指摘した。
奥田氏は、「30by30を達成するためのロードマップを来年4~5月の生物多様性条約第15回締約国会議パート2までに公表する。30by30の達成に向けて、民間企業等の保全活動が適切に評価され経済成長につながる仕組みを検討することが重要であり、その観点からも同報告書にはさまざまな示唆がある」と話した。
続いて、同報告書をめぐり、まずヘザー・ブリトン英国財務省ダスグプタ報告書担当官がその意義を紹介。同氏は、「生物多様性の損失が経済にもたらす影響は理解されていない。これをグローバルに考えてもらうため、パーサ・ダスグプタ ケンブリッジ大学名誉教授に同報告書の取りまとめを依頼した。同報告書を受け、英国政府は今年6月、インフラ整備等にあたり、自然にポジティブな影響が出るように行う方針を打ち出した」と述べた。
そのうえで、環境経済学を専門とする慶應義塾大学の大沼あゆみ教授の質問に答えるかたちで、ダスグプタ名誉教授が同報告書の内容について説明。同氏は、「自然には価格がつかず、また、どの程度生態系が損なわれているかが目に見えない。経済学はその存在を視野に入れてこなかった。私は、人工資本、人的資本と同様、資本財として自然をとらえてみた。それが包括的富の概念である。その際、自然の価値は市場価格に表れないため『会計価格』という考え方で表現する。過去20年間で人工資本は2倍、人的資本は15%増えたのに対し、自然資本は40%減少した。GDPではなく、包括的富の増加を追求することは、人類の幸福度にも好ましい影響を与える。戦後復興のような強い意志で、社会全体で生物多様性保全に取り組む必要がある。企業活動の自然負荷を開示したり、海洋のような公共財の使用に料金を課したり、熱帯雨林の保護等に投資を行っていくことが重要である」と強調した。
https://youtu.be/OaJsgXD1-DI
【環境エネルギー本部】