経団連のサプライチェーン委員会(立石文雄委員長、山内雅喜委員長)は10月7日、オンラインで会合を開催し、早稲田大学の藤本隆宏教授から、2020年代のものづくり戦略とサプライチェーンについて聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。
■ 平成における製造業の振り返り
平成の約30年間、「日本の製造業はダメになった」とよく言われたが、製造業の付加価値総額は約110兆円を維持している。個別の現場をみても、生産性向上と需要創造の同時追求で生き残った地場の工場や、「三方よし」の理念を実践し雇用を維持した中堅・中小企業、震災を機にサプライチェーン全体の状況を瞬時に把握できるようシステムを進化させた自動車会社など、付加価値の流れをつくり生き残った国内現場は多い。10年代にはGAFAをはじめとするメガプラットフォーマーに戦略的に対応できず、勝ったというには程遠いが、日本の製造業全体は、決して負けてはいない。
■ グローバル時代の産業分析(CAPアプローチ)
グローバル時代においては、現場のものづくりの組織能力(Capability)と現物の製品の設計思想(Architecture)の適合の度合いが、特定国の産業の競争力(Performance)を左右する。これをCAPアプローチと呼ぶ。
CAP産業分析によると、戦後日本の統合型組織能力は、最適設計の専用部品を擦り合わせる「インテグラル型」の設計思想と相性が良かった。他方、デジタル時代のパソコンやインターネットなど、業界標準の汎用部品を組み合わせる「モジュラー型」には適さなかった。組織能力や設計思想が異なる米国等の手法に追随するのではなく、(1)日本が得意とする現場の「コテコテのものづくり」(2)本社による「アーキテクチャーの位置取り戦略」の明確化(3)高シェア維持――の3つを徹底することで、高利益を確保できる。
■ S(サステイナブル)・D(デジタル)・G(グローバル)とサプライチェーン
サプライチェーンを考えるうえでは、「大きなSDG(サステイナブル、デジタル、グローバル)」が重要であるが、日本の産業現場には「三方よし」の考えがあり、サイバーとフィジカルがつながる際に重要度が増す「流れのコントロール」に強い。
さらには、モジュラー型のハイテク製品で覇権を争う「米中貿易摩擦」の間で、面倒で複雑な擦り合わせ型の製品・部品・設備を米中双方に売る商機も出てくるなど、日本企業のチャンスは増えよう。しかし、したたかな海外勢に対抗するためには、ライバル企業同士も競争終結後に組むべきところで組み、顧客のアセット間のデータ連携を進めるなど、サプライチェーンの「流れ」全体を良くすることで顧客を勝たせる策が必要である。
日本企業のものづくり能力はデジタル化の時代にこそ活きてくる。あとは戦略次第である。各企業において戦略にも現場にも強い若き“軍師”が現れ、新型コロナウイルス・デジタル・米中摩擦時代を乗り切ることを期待したい。
【産業政策本部】