経団連は、認知症がますます身近になるなかで、認知症との共生やバリアフリー社会の実現に向けた取り組みを促進するため、6月22日、「認知症セミナー~認知症との共生に向けて」をオンラインで開催した。
今号と次号の2回にわたり、各登壇者の講演の概要、政府、有識者、企業の関係者の取り組み事例などを紹介する。
■ 「『共生』と『予防』を車の両輪とした認知症施策の推進」
土生栄二 厚生労働省老健局長
政府は「共生」と「予防」を車の両輪とした認知症施策を推進しており、2019年策定の「認知症施策推進大綱」では、バリアフリーの推進などの5つを柱としている。大綱を踏まえ、認知症との共生を社会全体で進めることを目的に、官民の関係団体が連携する日本認知症官民協議会を設立した。同協議会では、接遇方法のマニュアルとして利用できる「手引き」を策定した。
大綱では、施策の推進状況を来年点検するとしているが、これまでのところ、順調である。今後は、企業と地域の取り組みをうまく連携させ、地域社会のバリアフリー化を実現していくことが重要である。
■ 「認知症フレンドリー社会を拓く~私たちのチャレンジ」
堀田聰子 慶應義塾大学大学院教授
私が代表を務める「認知症未来共創ハブ」では、認知症の方へのインタビューを通じて、(1)認知症の方が「やりたいこと」「喜びを感じること」(2)「困りごと」の把握とそれらの背景やそれに対する工夫など――について構造化することにより、認知症とともによく生きる未来をつくる活動を続けている。
誰もが普通に暮らせる「認知症フレンドリー社会」を目指すうえでは、認知症であっても、意欲と自信を持って社会に貢献できるよう後押しすることが重要である。誰かの役に立ちたいという認知症の方が増えるなか、地域によっては介護サービスを利用しながらも、介護事業所と行政、関係機関、企業の協働により働いているケースもある。
引き続き、認知症の方々と共に、「認知機能が低下しても生活者として豊かに暮らしたい」「新たなことにも挑戦したい」という思いを実現できる社会環境の変革に取り組んでいきたい。
■ 「認知症高齢者の市場ポテンシャルと認知症フレンドリーデザイン」
筧裕介 イシュープラスデザイン理事長
当団体では、認知症の方の行動・社会参加機会等の制限が企業の市場機会損失につながっているのではないかとの仮説に基づき、認知症発症に伴う行動や支出の制限によって生じる市場損失規模を推計した。その結果、例えば、外食産業に関していえば、545億円の損失が生じている可能性が示された。
また、認知機能が低下した方の社会参加を促すため、認知症の方へのインタビューを通じて生活課題の背景にある心身機能のトラブルを見極めながら、「認知症フレンドリーデザインガイド」を作成している。同ガイドでは「個人の意思や能力を尊重する」といった7つの原則を定めたうえで、認知症の方の生活課題を解決できる商品・サービスのデザインの指針を示している。
(次号に続く)
【経済政策本部】