経団連は6月30日、東京・大手町の経団連会館で常任幹事会を開催し、慶應義塾大学教授で内閣官房参与(デジタル政策担当)の村井純氏から、「デジタル政策の使命」と題する講演を聴いた。概要は次のとおり。
わが国は、2000年に高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法)、14年にサイバーセキュリティ基本法、16年に官民データ活用推進基本法を制定するなど、デジタル政策を進めてきたが、これまでのような窓口や紙による行政サービスに慣れていた利用者等への配慮などから、行政のデジタル化が進んでこなかった。今般、IT基本法を廃止し、デジタル社会形成基本法が、今年9月に施行される。その特徴は、窓口での行政サービスの利用者、とりわけ高齢者等に配慮した、「誰一人取り残さない」社会の形成を目指すところにある。難しい目標のようにも思えるが、かつて、11年7月にアナログテレビを廃止してデジタルテレビに移行した際は、エコポイント制度を活用し、100%の移行を達成した。目標を決めて、トップの意思決定のもと、国民皆で助け合う仕組みをつくることができれば、達成の道がおのずと開けてくる。
デジタル社会形成基本法に基づき新しく設置されるデジタル庁は、「長」および「主任の大臣」が内閣総理大臣である。首相をトップに、他の省庁に対して司令塔となる組織としなければならない。人事についても、世界のデジタル庁のように優れた人材が結集できるよう、民間企業との間でリボルビングドアをつくることも重要である。
また、菅政権には、温暖化ガス排出ネットゼロ、FOIP(自由で開かれたインド太平洋)の推進やQuad(日米豪印戦略対話)の活用、サプライチェーンマネジメントなど、デジタル化を前提とした重要な政策がある。デジタル庁には、こうした国全体の政策のなかに、デジタル関係の政策をどのように掛け合わせるのかを取りまとめる役割もある。
デジタル政策の前提となるテクノロジーに関しては、現在わが国でカバーされていない住宅居住地以外のエリアにおいて、低軌道衛星の活用による改善が今年にも見込まれる。産業・経済分野では、全分野の縦軸を横につなぎ、ハイブリッドな領域でどれだけ新しいことができるのかが、さらなる発展のカギとなる。デジタル庁としては、ハイブリッドな領域にまたがる事業の展開を見通し、財務省に対して予算を要求できるかが重要となる。
デジタル政策の使命は、霞が関の完全デジタル化、地方行政サービスシステム、サイバーセキュリティとの完全連携等を実行しつつ、タブーな領域を設けずに進めることである。また、日本の良いところは、困ったときに助け合う人と社会である。こうした日本の特徴を発展させ、武士道ならぬ「デジタル道」の精神で、誰一人取り残さないデジタル社会の形成を目指すべきである。
【総務本部】