経団連は5月25日、アジア・大洋州地域委員会(伊藤雅俊委員長、原典之委員長)をオンラインで開催し、慶應義塾大学の木村福成教授から、「ミドルパワーとしての日本とASEAN~国際通商政策にできること」について説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。
■ 「ルールに基づく国際貿易秩序」に向けたミドルパワー・コアリションの必要性
米中の大国間対立が激しさを増すなか、ミドルパワーである日本、韓国、台湾、ASEAN、豪州、インドは、それぞれ異なる距離感を保ちながら、米中双方と経済的に深くつながっている。各国は、米中から二者選択を迫られること、超大国同士による都合の良い合意形成、そして、ルールに基づく国際貿易秩序の弱体化を懸念している。とりわけ、超大国は、自らをルールで縛るインセンティブが減退し、ルールが不在となった場合、報復を恐れる必要のない相手には一方的に振る舞う可能性がある。こうしたなか、「ルールに基づく国際貿易秩序」をできる限り貫徹し、国際貿易秩序の安定を図るために、ミドルパワー・コアリションの形成とメガFTAの構築・活用が求められる。
■ ASEANはファクトリー・アジアに強力にコミット
1990年代以降、北東アジアと東南アジアを含む東アジアでは、長く続いた平和とルールに基づく国際貿易秩序を背景に、国際的生産ネットワーク(IPNs)あるいは工程間国際分業が展開され、「ファクトリー・アジア」として世界を先導してきた。とりわけ、ASEANのファクトリー・アジアに対するコミットメントは、中国の存在が急拡大するなかにあっても強力であった。その背景として、IPNsへの関与や他の東アジア諸国との強いつながり、ASEANの経済統合に加えて、ASEAN+1FTAやRCEP(地域的な包括的経済連携)など東アジアにおけるFTAのハブであったことなどが挙げられる。
コロナ禍により、マクロ経済の落ち込みは顕著であったものの、東アジアのIPNsは健在である。IPNsをさらに強靱化するには、ASEAN内とインド・太平洋への拡大も視野に入れた立地の優位性改善や、デジタル技術の導入によるIPNsの一層の効率化が重要である。
■ メガFTAを活用し、ルールに基づく国際貿易秩序の構築を
時間を要する交渉の場であるWTOを補完するためにも、メガFTAは有用である。しかし、署名、批准、発効が最終目標ではなく、いかに利用し発展させていくかが肝要である。昨年署名されたRCEP協定は、自由化、国際ルールづくりのほか、コミュニケーション・チャネルとして活用することによって政策リスクの低減が期待できる。また、ファクトリー・アジア全体に「ルールに基づく国際貿易秩序」の恩恵をもたらす。
日本は、メガFTAを積極的に活用しながら、ASEANと共にルールに基づく国際貿易秩序の形成に向け、ミドルパワー・コアリションを主導していくべきである。
【国際協力本部】