経団連は3月25日、経済財政委員会企画部会(中島達部会長)をオンラインで開催し、慶應義塾大学経済学部の土居丈朗教授から、財政健全化の今後のあり方について説明を聴くとともに懇談した。説明の概要は次のとおり。
■ 新型コロナ後の財政規律
新型コロナウイルス対策に伴い、わが国財政は、過去経験のない大量の新規国債を発行した。ただし、これは臨時的な措置とし、新型コロナ後には、歳出を削減して平時に戻す必要がある。また、新型コロナ対策で増発した国債の償還に向け、今後、税財源の追加的確保も課題となる。
「金利が上がらないから国債を増発しても問題はない」との議論がある。しかし、拡張的な財政金融政策による資金は、足元では、賃金や設備投資ではなく金融市場に回って資産保有者を潤し、経済格差の拡大につながっている。また、今後、経済が回復し、資金が賃金や設備投資に回ると、インフレ圧力が生じ、金利が上昇する可能性がある。足元で2年以下の短い満期の国債が大量発行されており、将来金利が上昇すると、借り換え時に利払費が増加しやすい財政構造になっている。
■ 社会保障制度改革
わが国財政は、約30年前から社会保障関係費・国債費以外は増えておらず、すでに硬直化の兆候がある。こうしたなか、社会保障関係費、特に医療費は高齢化によりさらに増大することが見込まれる。社会保障関係費の伸びを抑える「目安」は、2021年度予算で役目を終えるため、新たな目安のあり方が今後の財政健全化の道筋に大きな影響を与えることになる。
医療費の抑制に向けては、医療提供体制の効率化、具体的には、(1)地域医療構想のもとでの病床機能の分化(2)かかりつけ医制度の定着(3)医療・介護のデジタルデータの活用推進――が求められる。
■ 財政健全化の防衛線
新型コロナの収束が見極められないなか、今後の財政健全化目標を再設定することは難しい。そのため、今は最低限の財政規律として、(1)消費減税をしない(2)基礎的財政収支黒字化を否定しない――ことが重要である。
新型コロナ対策の国債の償還のための特別会計設置は、無制限の国債増発を誘発するため、新型コロナが収束して国債発行額が確定した後とすべきである。
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その後の質疑応答では、資産課税の拡大について質問があった。これを受け土居氏からは、資産課税の拡大は「一回限りの抜き打ち」で実施できるのであれば、格差是正などの観点から望ましい。しかし、それができなければ、課税に備えた資産売却などが生じ、経済活動に影響を及ぼすとともに、適切な資産形成を阻害しかねないとの説明があった。
【経済政策本部】