経団連(中西宏明会長)は1月19日、春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンスや雇用・労働分野における経団連の基本的な考え方を示す「2021年版経営労働政策特別委員会報告(経労委報告)」(目次のみ掲載)を公表した。
同日記者会見を行った同委員会委員長の大橋徹二副会長は、記者会見の冒頭、副題について、「昨年版に引き続き、働き手のエンゲージメント向上の重要性を強調したうえで、それが現下のコロナ禍を乗り越えるためのカギとなり、Society 5.0の実現にもつながっていくことを表現している」と説明した。2021年版報告のポイントは次のとおり。
■ はじめに
コロナ禍により、企業の経営環境や社会は激変した。経済界は引き続き、事業継続と雇用維持に最大限努力していく。
■ 第1章 「ウィズコロナ」時代における人事労務改革の重要性
労働生産性におけるアウトプットの最大化に注力する「働き方改革フェーズⅡ」の加速に向け、現場業務に従事する働き手も含め、「働きがい」と「働きやすさ」の双方を実感できる職場づくりなど、エンゲージメントを向上させるための人事労務改革が重要である。
テレワークについて、新しい働き方の選択肢の1つであり、生産性向上等の観点から、出社とのベストミックスのあり方を検討すべきである。また、コミュニケーション手段の多様化なども課題である。労働時間法制については、健康確保を大前提に、裁量労働制の対象拡大や、エンゲージメント向上に資する働き方を支える新しい法制を議論すべきである。
日本型雇用システムについては、自社の事業戦略や企業風土に照らして、組織としての生産性を高めるべく、メンバーシップ型を活かしながらジョブ型を最適に組み合わせた、「自社型」雇用システムをつくり上げていくことが大切である。
加えて、人生100年時代にあって働き手の学び直しは不可欠である。ポストコロナを見据え、成長分野への円滑な労働移動が重要となるなか、リカレント教育の充実やマッチング機能の強化などが求められる。
■ 第2章 労働法制の改正動向と諸課題への対応
改正高年齢者雇用安定法の施行に向け、70歳までの就業確保措置(努力義務)について早めに労使で検討し、結論を得ることが望ましい。副業・兼業についてはエンゲージメント向上にも資するため、政府のガイドライン改定によるさらなる普及を期待する。
地域別最低賃金の引き上げには、中小・零細企業の生産性向上支援と近年の大幅引き上げによる効果検証が不可欠である。
■ 第3章 2021年春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンス
労使交渉の前提となるわが国企業を取り巻く経営環境は、コロナ禍などにより低迷するとともに不透明感が強まっている。
(1)連合「2021春季生活闘争方針」への見解
「雇用の確保」を大前提に据えるなど、基本的な考え方については多くの点で経団連と方向性が一致している。一方で、「2%程度の賃上げ」を目標に掲げていることは、事業継続と雇用維持に努める多くの企業で共感や理解が得られにくい。
(2)経営側の基本スタンス
経営環境が激変するなか、「賃金決定の大原則」の堅持が例年に増して重要である。コロナ禍で業績がまだら模様のなか、業種横並びや各社一律の賃金引き上げは現実的ではなく、自社の実情に応じて基本給や諸手当、賞与・一時金を決定することが必要である。
総合的な処遇改善については、エンゲージメント向上の観点から、社員の「働きがい」と「働きやすさ」を高める施策について、議論を深めることが求められる。
企業労使が一体となって持続的な成長と生産性向上に取り組み、増大した付加価値を適切に社員に還元することで、働き手のエンゲージメントを高め、さらなる付加価値増大につなげていく「社内の好循環」が重要である。このような持続的な生産性向上を実現していくなかで、賃金引き上げのモメンタム維持が望まれる。
【労働政策本部】