昨年末のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、新たな気候変動政策に関する国際枠組みである「パリ協定」が採択され、各国の地球温暖化対策は新たな局面に入った。
そこで、経団連の環境安全委員会地球環境部会の地球温暖化対策ワーキング・グループ(村上仁一座長)と国際環境戦略ワーキング・グループ(手塚宏之座長)は8月30日、東京・大手町の経団連会館で合同会合を開催し、電力中央研究所の上野貴弘主任研究員から、「米国の動きから考える温暖化に関する国際的課題」をテーマに説明を聞くとともに意見交換を行った。
上野主任研究員の説明の概要は次のとおり。
■ 米国の長期戦略の年内提出
パリ協定は、各国に対し、2030年以降の温暖化対策に関する長期戦略を策定することを招請している。こうしたなか米国では、バラク・オバマ大統領の任期中最後の仕上げとして、2050年ごろに向けた長期戦略を年内に提出する可能性が高まっている。
米国は温室効果ガス排出量を2050年に80%以上削減するとの長期目標をすでに打ち出している。これは、世界全体の気温上昇を2℃未満に抑える「2℃目標」との整合性に配慮したものと説明されてきたが、パリ協定において新たに「1.5℃目標」が記載されたことで、これまで掲げてきた「2050年80%」という数値が、長期戦略においてより深掘りされるかが注目される。
■ クリントン候補の温暖化政策
米民主党のヒラリー・クリントン大統領候補は5億枚のソーラーパネルの導入や、石油ガス会社への補助金・税優遇の打ち切りなど、米国をクリーンエネルギー超大国にする政策を掲げている。
パリ協定では、2020年から5年ごとに、各国の温暖化対策に関する貢献(NDC)の更新・再提出を求めていることから、次期大統領がクリントン氏となった場合、2020年のNDC更新時に、現在の2025年目標を2030年目標に更新するとみられる。
米国は、「約束草案」として、2025年の温室効果ガスの削減目標(05年比で26―28%減)を掲げているが、この約束草案のなかで、2025年目標は「2020年目標(同17%程度削減)と2050年目標(同80%以上削減)を結んだ直線上にある」と説明されている。2025年目標と2050年目標を直線で引くと2030年の削減率は40%近いものとなる。しかし、現在の「2025年26―28%削減目標」ですら達成困難であり、仮に「2030年40%削減」という目標を掲げた場合、既存法だけではほぼ実現不可能であることから、成立へのハードルが高い新規立法頼みとなるだろう。
■ トランプ候補とパリ協定
米共和党のドナルド・トランプ大統領候補は、オバマ大統領やクリントン候補の温暖化政策に批判的であり、「パリ協定をキャンセル」するとも発言している。そのため、トランプ政権が誕生した場合、米国が協定から脱退するリスクがある。ただしパリ協定は、発効後3年間は脱退を通告できず、脱退が効力を有するのも1年後となるため、政権発足前に協定が発効すれば計4年間、米国は脱退できなくなる。仮に、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)から脱退すれば、パリ協定も脱退したものとみなされるが、トランプ氏がそこまで踏み込むかは、現時点で読みきれない。
【環境エネルギー本部】