コーポレートガバナンス・コード(以下、コード)の策定に際して、独立社外取締役2名の選任とあわせて焦点となったのが「政策保有株式」の問題である。
結局、コードでは政策保有株式の増減について特定の方向づけはなされなかったが、取締役会での保有の合理性について検証を求めたうえで、保有方針と議決権行使基準の開示が求められた(コード原則1-4)。
1.保有の方針
多くの上場企業では、経済合理性などから保有の意義があれば取得・保有継続をするが、保有の意義がなければ処分する旨を開示している。
一方、前記のような条件付きの処分ではなく、無条件に現在保有する政策保有株式を圧縮・処分する旨を開示する会社は、今年7月末の時点で、TOPIX100構成企業で8社、TOPIX500構成企業で22社存した。その多くが金融機関であった。また、そもそも政策保有株式を保有していない、あるいは保有しない方針である旨を開示した企業も、TOPIX500構成企業で7社あった。
2.議決権行使の基準
多くの企業が、議決権行使にあたり、議案が投資先の企業価値を増加させるか否か、あるいは、株主価値や自社の企業価値の増加につながるかを考慮している旨を抽象的に開示している状況である。
一方、議決権行使の基準についてある程度具体的に開示する企業もTOPIX100構成企業で4社、TOPIX500構成企業で17社存した。開示された基準は、やや抽象的なものから、スチュワードシップ・コードを受け入れた機関投資家が開示する議決権行使基準と同じものまで多様であった。
なお、投資先の会社提案にかかる議案については原則として賛成する旨を開示する企業も、TOPIX100構成企業で5社、TOPIX500構成企業で24社存した。
3.その他
コードからは開示が求められないが、任意に行われている開示としては、政策保有株式の保有の合理性の検証について開示するものが少数あった。いつどのような組織で検証したか、その結果、保有に合理性があると判断した理由の概要、さらに取締役会への説明などについて言及されている。
4.政策保有株式の減少
コードの影響は確実に表れている。
上場会社の政策保有株式の増減は、有価証券報告書における「純投資目的以外の投資株式」の銘柄数と簿価に関する記載から、ある程度把握できる。今年7月時点で、メガバンクグループを含む大規模な上場会社30社で構成されているTOPIX Core30の構成企業では、「純投資目的以外の投資株式」は1年前と比較して、銘柄数では3.3%の微減にとどまったものの、簿価では14.5%、2兆8227億円も減少している。
政策保有株式の処分には、投資先企業の理解や株価に影響を与えない処分方法の選択が必要であることから、ある程度の期間が必要である。したがって、この減少傾向は今年に限ったこととはいえず、来年以降もしばらく継続することが見込まれる。
5.経営への影響
一方、スチュワードシップ・コードは機関投資家に対し、受託責任の履行として、形式的ではない明確な議決権行使の方針の作成と、行使結果の顧客・受益者への定期的報告を求めているが、その影響も着実に表れている。機関投資家の議決権行使は、国内外を問わず活発化する方向にある。最近の新聞報道によれば、わが国の大手生命保険会社が保有する上場会社の株式について、この1年間で会社提案の10%前後に反対票を入れた模様である。
その結果、伝統的な意味での「安定株主」に頼った経営や株主総会対応には、ますます限界が生じているといわざるを得ない。
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次回は、任意の委員会と後継者の計画について取り上げる。